デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

【ラムリー島の戦い秘話】ブラック・クローラー -殺戮領域-【英印軍×日本軍×ワニ】

『もうハリスさんとか敬語はいい。ジャックだ』

『ジャック…どうぞよろしく。私の名前はハリナリヤン・シェラ・パンジャブ・シン・ライ・カラ…ハリーでいいです』

これもまた名乗りか(笑)。

第二次世界大戦末期。リーダーの軍曹以外、場所も目的も知らされずにとある島に送り込まれた英国軍4名。

志願したばかりの新兵ハリス(短気で粗暴)、荷物はカメラな非戦闘員パイク(この仕事が終わったら結婚してプロのカメラマンになるんだ)、そして、第77インド歩兵旅団からの出向者、シン(後に自称ハリー)。


シンの階級はランス・ダファダール(ハリスのプライベートよりは上)。

第77インド旅団はイギリスのチャールズ・ウィンゲート准将が率いていたことから「ウィンゲート旅団」とも呼ばれていたゲリラ戦を得意とする挺身部隊です。

ここはラムリー島。広さ約1,350㎢、南北に細長いミャンマー最大の島。実効支配しているのは日本軍。

英国軍の目的地は日本軍の基地…ではなく兵器庫。

航空写真では識別不能な武器庫の位置を特定して空軍に報告するのが密命。

途中ハリスが偵察中の日本人2名を倒してしまったことで、時間に余裕がなくなった(すぐに戻らない2人を訝しんだ日本軍が来る)一行は、安全な沿岸部ルートを諦め、一気に島の中心部に広がる湿地帯を抜けることに。

しかし、そこにはソルトウォーターと呼ばれる水陸両用の悪魔、イリエワニの巣窟でした。

「ブラック・クローラー -殺戮領域-」(2021年/スティーヴ・ローソン監督)

毎度お馴染みワニものなんですが、裏戦記ものの体裁をとっているのが新機軸。

1945年1月21日から2月22日に英国軍がラムリー島を奪還(元々ミャンマーは英国領)するために仕掛けた「ラムリー島の戦い」の裏にあったかもしれない極秘作戦の顛末です。

インド人を下に見て敵視するハリスと飄々と受け流すシン(シンはインドではかなり上流の家の出)。

ハリスが携帯しているのは英国軍の標準的軍用拳銃「ウェブリーMk IV .38/200 サービス・リボルバー

ウェブリー&スコット社による「中折れ回転式拳銃」です。


38/200というのは、.38口径でも200グレイン(13g)の弾頭を使用すれば従来の.455口径弾とおおむね同程度の威力とストッピングパワーが期待できるという所から来ているんだとか。

ぱっと見はエンフィールドですが、外見は似ていても部品の互換性は一切ないそうです。

ちょっと欲しい…。

こちらはDVDジャケット。


『その沼地に足を踏み入れた兵士は1,000人。生きて還ったのはわずか20人』

という景気のいいコピーが躍っていますが、微妙に嘘。

これはラムリー島の戦い本番時に英国軍によって分断された日本兵約1,000人が、投降を潔しとせず危険な湿地帯踏破を選択した結果、最終的に生存が確認されたのは英国軍が捕虜とした約20名だけだった、という事実を踏まえたもの。つまり、

  1. 本作終了後のお話で、映画とは直接関係がない。
  2. 差分の980人が全員ワニに喰われたわけではない(他にも危険な生き物は沢山いたし、辛くも逃げ延びた者もいたと思われる)。

本作には戦争映画としてもパニック映画としても、それらしい「見せ場」はありません。

粗暴な英国人と英国に敬意を表しつつもどこか馬鹿にしているインド人の呉越同舟感を楽しむ作品だと思います。

 

★エンフィールドについてはこちらを。

★似たような邦題のワニものについてはこちらを。

 

 

 

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