『たとえ綺麗じゃない方法だとしても解決したいかい? なら間違えればいいさ。ずるい嘘をついたり、怖いものから逃げ出したり。でも、それが後になって正解だって分かることがある。本当に他にどうしようもないほどドン詰まりになったら、いっそ、思い切って間違えちゃうのも手なんだよ』
『それはその子のためになるって分かってもらえるかな?』
『分かってもらえない時もある。特にすぐにはね。言ったろ、綺麗な解決じゃないって。その子の事諦めるか、誤解されるか、どっちがマシかい?』
そうか。そういう事か。何という壮大かつトリッキーな伏線。
「劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語」(2013年/新房昭之総監督)
過去・現在・未来、全ての業を背負って宇宙の理すら書き換えた鹿目まどか。
全ての人の記憶からまどかの存在が消え去った後もただ独りまどかを想い続ける少女、暁美ほむら。あの大団円の続章のはずなのに…。
冒頭、元気に魔法少女として活躍しているまどかの姿が。
その傍らには死んだはずの巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子。しかも、巴マミは自らを捕食した魔女・ベベをパートナーに。キューべえは鹿目家のペットとして愛嬌を振りまき…。
さやかと杏子は同じ学校のクラスメイトとして、親友のようにじゃれ合い…。
転校生・暁美ほむらを加えた5人組の魔法少女。これは一体…。
『こんな世界は物理的にありえん。もし、ありえるとすれば…』
『夢の中だけ・・・か?』
本作、見事なくらい「ビューティフル・ドリーマー」と符合しています。問題は誰がラムで誰が夢邪鬼か。観直して気づきましたが、全ての答えはOPの中にあったんですね。
最初に疑問を持ったのは暁美ほむら。
『私たちの戦いって、これで良かったんだっけ?』
打ち明けられたのは佐倉杏子。彼女は以前どこにいたのか。いつからここに来たのか。二人の会話はさくらと温泉マークのやりとりと符合します。
『いつ、どこで、だれと会い、何をしたのか、大体わたしが学校に泊まり始めて、幾日たつんでしょうね。3日ですか?4日ですか?』
杏子が以前居たと言う街に行くことにした二人。しかし、バスはいつの間にか行き先が変わり、歩いて行こうとしてもいつしか見滝原に逆戻り。
電車は環状線に、バスは循環に、車道もねじれて友引町から一歩も出られないあの状況と酷似しています。
『昨日も一昨日も、いや、それ以前から、わたしらは学園祭前日という同じ一日の同じドタバタをくり返えしとるんじゃなかろうかと…そして、明日も…』
杏子も記憶の襞から何かを。
『妙なんだよ。こんな強気な暁美ほむらは初めて見るはずなのに、全然意外って気がしねえ。むしろ、しっくりするくらいだ』
改竄された記憶、再構築された偽りの世界。誰が、何のために。
大団円と見せかけて更にそこから一山(しかもダークな)ある構成が見事。
終盤の展開で思い出したのは「バイオレンス・ジャック」。
あの世界は、人類を滅ぼし、愛する不動明(デビルマン)を殺してしまった飛鳥了(サタン)が、その悔恨から作り出した“やり直し”のための舞台でした。
再構築された世界で互いに異なる個体として出会い、取り戻した記憶と赦しの中で結ばれる悪魔人間と悪魔。
過去の作品を引用して新作を語るのは年寄りの悪いクセですが、本作は「うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー」「バイオレンス・ジャック(デビルマン)」を確信犯的に模倣していると思います。
決して全てが丸く収まったハッピーエンドではない“締め”に違和感が募りますが、それも監督の仕掛けのうちでしょう。
(TVシリーズも含め)改めて凄い作品だと思います。
★ここまでのおさらいはこちらから。