『あなたは神になったつもりだろうが、それは違う!悪魔だ!念力でサンフランシスコが見えると言うなら、見てみるがいい!』
入魂の脚本とはこのような作品のことを言うのでしょう。
日本海軍を復活させていたのは、イメージを実体化させる装置を開発した超心理学者平博士でした。対峙する009と平博士。
『この機械は、私のイメージを形に現せるんだ。私は神に等しい力を持ったのだ!光あれよと叫べば光ありき、日本海軍復活せよ!と叫べば、ご承知の通りだ』
『そんな馬鹿な!あなたは狂っている!』
『狂っているのは私ではない!人間だ!お前達だ!』
ここから続く博士の独白とその描写はアニメ史上に残るでしょう。
『かつて日本は誤れる戦いをし、多くの命を犠牲にしてしまった。その時、私たちは彼等の魂に何を誓った?!』
BGMは女性コーラスに、画面は広島原爆記念碑、そして原爆ドームへ。
『我々は戦争放棄を憲法によって定め、二度と軍隊を持たぬと宣言した。世界中が戦争はもうこりごりだと、そう心から考えたはずだ!なぜなら、それだけが、死者の魂を慰める、たったひとつの方法だからだ!』
ここで何と日本国憲法第9条全文がテロップで流れます。更に長崎平和の像、ひめゆりの塔、祈るセーラー服の女学生が次々と。
『だが・・・今やその誓いは虚しかった!』
広島上空を飛ぶ自衛隊の戦闘機、爆音、「安らかに眠ってください・・過ちは繰り返しませぬから」という平和記念碑の文字。
『私の一人息子は戦争で死んだ。死者が生きて帰らぬ以上、生きている私は何をなすべきか? これが私の回答だ!』
電磁バリヤで守られた博士に体当たりを続ける009。そして冒頭の台詞。
サンフランシスコはパニック状態。転がる乳母車、泣きすがる母親。
ふと横を見るとそこに博士の死んだ息子のゆうたろうが。
博士の頭に着けている機械をそっと外すゆうたろう。
長門は動きを止め、ゆっくりと海底へ沈んでいきます。
『パパ、僕達の魂を、これ以上いじらないでくれないか?お願いだ、昔の優しいパパに戻っておくれ。トンボ取りをしてくれたパパみたいに…』
『ゆうたろう、私はまだお前を抱いてやることができるだろうか…』
このへんで泣けない人とはちょっと友達にはなれません。
平博士はそのまま急速に消耗して息を引き取ります。ギルモア博士の締めの一言。
『しかし、儂にはわからん・・・。狂った悪魔は平博士だったのか? 平和の名を借りて、戦争の準備を怠らぬ人間どもの方なのか…』
当時、アニメは有害とか言い垂れていたPTAの集会に辻真先がこの作品のフィルムを持ち込んで、全員を黙らせた、という逸話があるそうです。白黒アニメですがDVDも出ています。ご家族揃って是非。