デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

サイボーグ009「太平洋の亡霊」その2

イメージ 1

『あなたは神になったつもりだろうが、それは違う!悪魔だ!念力でサンフランシスコが見えると言うなら、見てみるがいい!』

入魂の脚本とはこのような作品のことを言うのでしょう。

 

サイボーグ009 第16話 太平洋の亡霊」
(1968年7月12日/辻真先脚本)


日本海軍を復活させていたのは、イメージを実体化させる装置を開発した超心理学者平博士でした。対峙する009と平博士。

『この機械は、私のイメージを形に現せるんだ。私は神に等しい力を持ったのだ!光あれよと叫べば光ありき、日本海軍復活せよ!と叫べば、ご承知の通りだ』

『そんな馬鹿な!あなたは狂っている!』

『狂っているのは私ではない!人間だ!お前達だ!』

ここから続く博士の独白とその描写はアニメ史上に残るでしょう。

『かつて日本は誤れる戦いをし、多くの命を犠牲にしてしまった。その時、私たちは彼等の魂に何を誓った?!』

BGMは女性コーラスに、画面は広島原爆記念碑、そして原爆ドームへ。

『我々は戦争放棄憲法によって定め、二度と軍隊を持たぬと宣言した。世界中が戦争はもうこりごりだと、そう心から考えたはずだ!なぜなら、それだけが、死者の魂を慰める、たったひとつの方法だからだ!』

ここで何と日本国憲法第9条全文がテロップで流れます。更に長崎平和の像、ひめゆりの塔、祈るセーラー服の女学生が次々と。

『だが・・・今やその誓いは虚しかった!』

広島上空を飛ぶ自衛隊の戦闘機、爆音、「安らかに眠ってください・・過ちは繰り返しませぬから」という平和記念碑の文字。

『私の一人息子は戦争で死んだ。死者が生きて帰らぬ以上、生きている私は何をなすべきか? これが私の回答だ!』

電磁バリヤで守られた博士に体当たりを続ける009。そして冒頭の台詞。
サンフランシスコはパニック状態。転がる乳母車、泣きすがる母親。
ふと横を見るとそこに博士の死んだ息子のゆうたろうが。

博士の頭に着けている機械をそっと外すゆうたろう。
長門は動きを止め、ゆっくりと海底へ沈んでいきます。

『パパ、僕達の魂を、これ以上いじらないでくれないか?お願いだ、昔の優しいパパに戻っておくれ。トンボ取りをしてくれたパパみたいに…』

『ゆうたろう、私はまだお前を抱いてやることができるだろうか…』

このへんで泣けない人とはちょっと友達にはなれません。

平博士はそのまま急速に消耗して息を引き取ります。ギルモア博士の締めの一言。

『しかし、儂にはわからん・・・。狂った悪魔は平博士だったのか? 平和の名を借りて、戦争の準備を怠らぬ人間どもの方なのか…』

当時、アニメは有害とか言い垂れていたPTAの集会に辻真先がこの作品のフィルムを持ち込んで、全員を黙らせた、という逸話があるそうです。白黒アニメですがDVDも出ています。ご家族揃って是非。