“お願い、早く終わって・・”
まだホラー免疫が十分でなかった高校生の私はスクリーンに向かって必死でお祈りしておりました。
そうか。“あたし、出来ちゃった”の一言は男にかくも陰惨な悪夢をもたらすのか。
「イレイザーヘッド」(1976年/デヴィッド・リンチ監督)
恋人に妊娠を告げられた男の見る夢とも現実ともつかぬ不条理な日々。
実は夢か現実か、は大した問題ではありません。
なぜなら、男にとっては夢でも現実でも“悪夢”であることに変わりがないから。
ナイフを刺した瞬間、奇声を発して振るえながら股間から血を垂れ流すチキン。
生まれてきたのはヒナの様な奇形児。
スチーム・ヒーターの隙間にいるお多福の歌姫。
銀残しのようなモノクロ画像に刻まれ続ける狂った映像。
実際、リンチが付き合っていた彼女の“出来ちゃった”告白が、この映画製作のエネルギーになっているようです。
そんなに嫌だったのか、リンチ。
出発点にして到達点。嫌嫌な最高傑作です。