2009年に一度レビューしておりますが、この時は劇場公開時の記憶を手繰って書いていたので、改めて[完全版]の感想を。
ふえ~ん、やっぱり怖いよう(←大の大人が口にする台詞じゃないな)。
「イレイザーヘッド[完全版]」
(1976年/デヴィッド・リンチ監督)
“妊娠したの。結婚して!”→“畸形なの。あなたが育てて!”という男にとってこれ以上の悪夢はないであろう人生のセメタリー。
押し寄せる悪夢(現実)に翻弄され、思いつく限りの逃避を試みるヘンリー(ジョン・ナンス。同時にリンチ本人)。
慌てず騒がず淡々と、しかし確実に狂気へと…。
銀板にエッチングした様な無機質な画面がヘンリーの荒涼とした心象風景に重なり、実に“いい感じ”。
本作の真の主役は畸形の赤ん坊(現場でのニックネームはスパイク。←スヌーピーのお兄さん。どういうユーモアだ?)。
手も足も無く、包帯で巻かれた胴体に、細い首で繋がっているヒナを思わせる頭部。
不気味な声で泣き続け、片時もその存在を忘れさせない“終わらない悪夢”。
公開当時もアナウンスされましたが、妊婦は絶対に観ちゃ駄目です。結婚間近の若いカップルもやめた方がいいでしょう。
で、またこの赤ん坊の動きがリアル。CGは勿論、トム・サビーニの協力も無く、製作に4年の歳月を掛ける程資金不足だったはずなのにこの精緻な動きはなんじゃらほい。
ヒーターの中のお多福歌姫は、いかにもとってつけたメイクなのに、こちらはどう見てもホンモノ…ってか本物だったんじゃないのか(特殊効果はリンチ本人)。
現実逃避の終着駅は“私の頭の中の消しゴム”。そうか、全て消してしまいたかったのか、ヘンリー、いやリンチ。
リンチは、製作・監督・脚本・編集・美術・特殊効果を担当していますが、[完全版]では音響効果にも直接手を入れています。
ほとんどプライベート・フィルムですが、だからこそリンチのカラーが溢れ出た余人を以て替えがたい傑作なのだと思います。
★前回レビューはこちら。