ガラス窓を叩き割った斧がそのまま女性(これが何とベルルスコーニ現イタリア首相夫人ヴェロニカ・ラリオ)の腕を切断!
消火栓の如く迸る鮮血が白い壁を瞬く間に深紅に染めていく…。
嗚呼、俺は今、アルジェントの映画を観ているんだなぁ…(恍惚)。
「シャドー」
(1982年/ダリオ・アルジェント監督)
プロモーションと新作執筆のため、ローマを訪れたアメリカ人推理作家ニール(アンソニー・フランシサオ)。
しかし、ローマに着いた途端、自作「TENEBRE」(暗闇の祈り)を模した連続殺人事件が。
魔女ものに一旦の区切りをつけたアルジェントがジャーロの世界にカムバック。
刑事にジュリアーノ・ジェンマ、ニールのエージェントにジョン・サクソン、秘書にダリア・ニコロディ、宿の娘に「思春の森」のララ・ウェンデルと面子も豪華。
クレーンを使って縦横に移動するカメラを、久々に集結したシモネッティ=ピニャテッリ=モランテ(「ゴブリン」を名乗れないのは大人の事情)の音楽が景気良くアシスト。前代未聞の犯人交代ミステリを劇的に煽っています。
で、まあちょっとだけ文句を言わせて貰えれば、相変わらず登場人物の行動が不自然。
アメリカ人が空港で荷物を「さあ盗んでくれ(若しくは、さあ何か仕込んでくれ)」と言わんばかりに手放すとか、しないだろ、普通。
ニューヨークにいるはずのニールの婚約者ジェーン(ちょっと精神を患っている)が、ローマにいたら怪しいだろ。何故警察(ジェンマ)に報告せん?
殺人の証拠品を奪った少女を殺害して何故証拠品を回収せん? 足跡も指紋も消さず、死体遺棄もせんと自宅のそばに放置って犯人も警察も馬鹿か?(犯人Bなら理解できなくもないが、まだ犯人Aだろ)
普通のミステリならここでダメ出し100連発ですが、これはアルジェント映画という特殊学級ジャンル、血糊と共に溢れ出る作家性でチャラです。
後にデ・パルマが「レイジング・ケイン」で丸パクリする“あのショット”だけでもお釣りが来ます。
あ、あと余談ですが、ジョン・サクソン、君、帽子似合わないよ。