マッチ箱は人生の必需品。 不思議惑星キン・ザ・ザ
寒空の中、裸足で街中に佇む男に話しかけたマシュコフとゲデバン。
聞けば、彼は空間転移装置の事故で異星から飛ばされて来た宇宙人だという。
「なぁにが空間転移装置だ。見せてみろ。これがスイッチか(ぽち)・・・どこだ?・・ここは」
そこは、
「不思議惑星キン・ザ・ザ」(1986年/ゲオルギー・ダネリア監督)
正確にはキン・ザ・ザ星雲に位置する砂漠の惑星ブリュク。
見渡す限りの砂漠。見上げれば、ザルドス・・じゃなくて飛行石を積んでいるとしか思えない重力無視の釣鐘型飛行船。
中から出てきた二人の男が両手を広げて“クー”。何がどうなっているんだ?
ペレストロイカの開始直後に製作された、観る人が観れば恐らく痛い所をチクチクと突いているのではないかと思われる旧ソ連製SFです。
にしてもよくまあこんな世界観を思いついたなあ。
この惑星の言語はふたつ。公言可能な罵倒語“キュー”とその他全てを意味する“クー”。
バラモン並みの階級社会で、位が下の者は鼻に鈴をつけて服従のポーズをとらなければなりません。
何故かマッチ(の先端の薬剤)が貨幣に匹敵する最高級資源(火を起こす道具は別にある)。
風呂で屁をこいたようなヘッポコピーな音楽が最高(時折、合いの手で入る“クー”が脱力感を強力アシスト)。
ソ連のSF=タルコフスキーだと思っている人にはカルチャー・ショックかも。
この作品の雰囲気を伝えるのは難しいですが、強いて言えば、テリー・ギリアムの脚本をアキ・カウリスマキが演出した、そんな感じです。
134分はちと長丁場ですが、最後まで見届けると不思議な爽やかさが残ります。
※我々もいつ何時ブリュクにワープするやもしれません。マッチ箱だけは手放さないようにしましょう。