恩師を囲んだ元生徒の軍団が、列を作って兵隊のように両手を振って敬礼して“おいっちに!おいっちに!”と掛け声をかけながら行進する。満面の笑みを浮かべて。
自分とは時代も世代も状況も違います。“師弟愛”という言葉の捉え方すら違うでしょう。
ただ、そこいらへんを勘案して差っ引いたとしても、やはりこの世のものとは思えぬ光景です。
「まあだだよ」(1993年/黒澤明監督)
内田百閒と愉快な生徒たちの熱すぎる師弟愛を描いた巨匠の遺作・・なのですが。
教室で煙草を吸っていた生徒を笑って許す百閒(松村達雄)の登場シーンから「え?」
誰も彼もが唱歌や童謡などを突如大声で歌いだし、周りがこれに和する光景も「美しい」と言うよりは「気持ち悪い」。
ユーモア溢るるシーンや台詞も残念ながら笑うは勿論、口の両端が上方に引き上げられる事もなく、実にいたたまれない134分でした(多分、私が人として至らない為でしょう)。
内田百閒というと「ツィゴイネルワイゼン」の元ネタにもなった幻想譚「サラサーテの盤」の作者、睡眠薬でラリラリの芥川龍之介に批判される程の大酒飲みで、性格は頑固・偏屈・我侭・無愛想という程度の知識しかないので、本作での金無垢・天衣無縫なイメージには戸惑うばかり。
全てを美談・美談で押し切られると、かえって魅力を感じないものです(俺だけか?)。
「実際そうだったんだから仕方ないだろ!」と言われれば「ごめんなさい」と謝るしかないですが・・(やはり偏差値貧乏な俺にクロサワは無理だ)。
★ご参考