デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

静謐なる時代劇の頂へ。 切腹

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張っている。漲っている。滾っている。

空気が。想いが。怒りが。

武家屋敷中庭での語りと回想という静的構成にも関わらず、何と言う豊かな奥行き。

135分の長丁場を一瞬もダレずに画面に喰い入らせる脚本の妙(橋本忍!)。

言い淀んだら負けとばかりに吟遊詩人の如く喋り倒す役者陣。

叩きつけるようにかき鳴らされる琵琶の随伴(武満徹!)。

時代劇のひとつの頂点がここにあります。

 

切腹(1962年/小林正樹監督)

 

彦根藩井伊家の上屋敷。津雲半四郎と名乗る浪人(仲代達矢)が現れ「切腹のため」お庭拝借を申し出た。

「またか‥」家老の斎藤勘解由(三国連太郎)は苦々しく呟いた。

切腹する気なぞ無いのはわかっているが、本当にやられて庭先玄関先を汚されてはかなわない、という相手の足元を見て金品をせびる・・切る切る詐欺だ。つい、先日も・・。

勘解由は半四郎を屋敷に上げ、先般当屋敷に来た千々岩求女なる浪人の話を始めた。

求女(石浜朗)をたかりと見抜いた勘解由は、望み通りにしてやると中庭を提供し、更に求女の脇差(竹光!)で半ば強引に腹を切らせた。古式に則り、腹十文字に掻っ切るまでは介錯も許さず。

求女は全体重を柄にかけ、あまりの苦しみに舌を噛んで果てたという。

『お前もそうならぬうちに黙って帰れ』

しかし、半四郎は動じない。

『心配御無用、見事、腹掻っ捌いてご覧にいれます』

この求女こそ半四郎の・・。果たして半四郎の目的は・・。

中盤からは、まるで法廷劇のようなサスペンス。隠された事実がひとつ、またひとつと。

名シーンの誉れ高い仲代vs.丹波の決闘シーンは、何か腰が引けてて、時代劇の殺陣っぽくないなぁと思っていたのですが、真剣使っていたと知って納得。

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因みに今、三池崇史監督がカンヌに持参している新作「一命」は本作のリメイク。

主演がエビゾー&瑛太ってだけで大笑いですが、本当の地雷は、

脚本:山岸きくみ(終了!)

「えっとー、ざとーいちって眼ぇ見えない人でしたっけ? え、たて?何ですかたてって?」

という程度の頭で「座頭市THE LAST」の脚本書いた(としか思えない)女が、蟻の這い出る隙間もない橋本脚本をリテイク?

馬鹿にすんのも大概にしとけよ。竹光で腹を切るか喉を突け。

 

※ご参考 

仲代も頼むから仕事選んでくれよ…。