接近。激突。一瞬で砕け散るフロントグラス。氷雨の如く舞い散るガラスの破片とそれを見つめる瞳。
モリコーネの美しい旋律に乗って超ハイスピード描写されるクラッシュ・シーン。
甘美とも言える死の瞬間。
こんな素晴らしいシーンを観て尚、脚本がぁとか辻褄がぁとか編集がぁとか言い垂れる奴はただの人でなしです。
「4匹の蠅」(1971年/ダリオ・アルジェント監督)
アニマル・トリロジーとしては勿論、アルジェント作品の中でも唯一未公開(未国内ソフト化)だった幻の作品。
もうのっけからアルジェント節全開。
80年代のミュージック・クリップを嘲笑うかのようなクールなバンド演奏。
ギター内部から弦舐めという常軌を逸したカット、何度も挟み込まれる意味不明な心臓ドックン、時間軸無視の回想とシンバルに潰される蚊。
人気ドラマー、ロベルトはストーカーを誤って刺殺。それを謎の男に目撃され、以来ロベルトの周りで不可解な殺人事件が・・。
死者の網膜に刻まれた死の瞬間の映像をレーザー照射によって浮かび上がらせる(そこには4匹の蠅が!)というアイデアは無理があるにも程がありますが、まあいいじゃないですか。
凶器(もしくは凶器を持つ手)にカメラを固定して、鈍器舐め、ナイフ舐めの移動撮影が不思議な効果を生んでいます。
確かに、伏線は機能していないし、ミスディレクションも空振り、冗長感も否めませんが、ラストのクラッシュ・シーンで帳消し。
クローネンバーグが「クラッシュ」で、タランティーノが「デス・プルーフ」で挑戦した“事故=タナトス”の先駆けは71年のアルジェント作品でした。
※参考[アニマル・トリロジー]
第1作「歓びの毒牙(キバ)」→2010年9月9日
第2作「わたしは目撃者」→2010年11月23日