一発オチの短編をよもやここまで膨らませるとは。
努力と苦労と工夫は買いますが、ちょっと風呂敷の広げ方を間違えとりゃせんか?
「運命のボタン」(2009年/リチャード・ケリー監督)
見た目は裕福そうですが内実は一杯一杯の夫婦(キャメロン・ディアス&ジェームス・マースデン)の元に届けられた1つの箱(原題はTHE BOX)。
上部にはドーム状の透明蓋に覆われたボタンがひとつ。
夕刻、スチュアートと名乗る紳士が訪れてこう告げます。
『このボタンを押すと2つの事が起きます。ひとつはどこかであなたの知らない人が1人死にます。もうひとつはあなたに100万ドルが支払われます。現金で。勿論非課税』
夫婦は悩み、口論しますが、結局、妻がボタンを押してしまいます。
ここまでが原作(リチャード・マシスンの「BUTTON,BUTTON」)と共通するストーリー。
この後、原作ではシニカルなオチがつき、TV(新トワイライト・ゾーン)版ではシンプルですが余韻を残す別のオチが用意されています。
で、映画版。
当然、ボタンを押す押さないで引っ張るのかと思いきや、何と30分であっさりプッシュ。
おいおい、まだあと1時間半近くあるぞ、大丈夫か。
全然大丈夫じゃありませんでした。
夫婦の口論の中で、原作版・TV版のオチについてサラリと触れていたので、どちらのパターンでもないのは分かりましたが、まさかそんな明後日の方向に捻じ曲がって行くとは。
雰囲気だけで言えば、「ボディ・スナッチャー」と「光る眼」と「フォーガットン」を足しっ放しにした感じ。完全なトンデモ映画です。
キャメロンとジェームスが、地に足のついた演技をしてくれているので、かろうじて不条理ミステリーの枠に留まってはいますが、この贅肉の付け方は好き嫌いが分かれるでしょうねえ(因みに監督は「ドニー・ダーゴ」撮った人)。
私は役者たった3人で“制作費って何?”なくらい金の掛かっていない新トワイライト・ゾーン版「欲望のボタン」(写真下)が頭抜けてると思います。