『おめえば、やっぱり三味線ば弾く人だ』
『・・定蔵!三味線ば持て!』
一度手放した(棄てた)ものを再び手にする・・あらゆる物語に通底する鉄板の通過儀礼。高橋竹山はこうして生まれました。
「竹山ひとり旅」(1977年/新藤兼人監督)
幼くして半失明となった定蔵(後の高橋竹山)の青年期を描く伝記映画。
東北、寒村、百姓、極貧、失明・・どんだけ暗い話になるんだよ?という不安は杞憂。
ボサマ(盲目の門付芸人)に弟子入りし成長した定蔵(林隆三)が「戻ってきたど!」と力強く挨拶した瞬間、ドラマは一気に青春ロードムービーに!
「一本立ちの乞食さなる」と宣言して諸国門付けの旅へ出た定蔵はさまざまな出会いと別れを繰り返し、三味線の腕に磨きをかけます。
小心者の泥棒・仙太(川谷拓三)、飴売りの彦一(戸浦六宏)、お札売りの姐ちゃ(絵沢萌子)、大黒舞いの佐兵衛(殿山泰司)、カフェの女給・富子(伊佐山ひろ子)etc
中でも飴売りの彦一は、商人宿での大物ぶった態度と飴売り姿(←すっげー間抜け)のギャップが楽しくイチオシです。
勿論、良い人ばかりではなく、こすい奴、せこい奴、あくどい奴もいるのですが、ひとつひとつのエピソードを引っ張らず、次々と話が進んでいくので不快感は残りません。
ただ、終盤に定蔵を騙し、自分が手をつけて孕ませた生徒を押し付けて逃げる聾唖学校教師のエピを除いて。
『目明きは汚え!』
三味を捨て、出奔し、尺八一本で誰とも繋がらない本当のひとり旅。
『おら、うちの人ば捜しに行きてえ』
全盲の妻フジを演じる倍賞美津子が気高くも健気。半ば行き倒れた定蔵を叱咤する母を尻目に這って寄って肌を与える姿は最早菩薩。
林隆三がミスキャストとの意見もありますが、私は彼で正解だと思います。彼の屈託の無さと言うかアッパーな力強さが、本作の重さをかなり和らげています。
むしろ、母トヨ役の乙羽信子が(監督の身贔屓という訳でもないでしょうが)ちと出すぎ(定蔵が困っているとウルトラマンのように都合よく現れるので、ひとり旅感が薄れてしまう)なのが気になります。