スタンリー・キューブリックはカメラマン上がりなので、演出意図を言葉にした演技指導というものが苦手、という話を聞いた事があります。
ではどうするかと言うと、自分の求める演技を役者が表現するまで何度でも、50回でも100回でもリテイクを繰り返すんだそうです。
「シャイニング」の現場が正にこのリテイク地獄。カメラの前を右から左に横切るだけで100を越える撮り直し。
メイキングを観ると、シェリー・デュバルとスキャットマン・クローザースが完全に精神崩壊している様子が分かります。
このリテイク・スパイラルの中で只1人、100テイク100通りの演技を披露する引き出し百貨店な男がおりました。
ジャック・ニコルソン。
実力派怪優という余人を以って替えがたいポジションを飄々と泳いでいる変なおっさんが人生の佳境を迎えて更なる引き出しを見せつけ……るのですが、作品としては大きく空振っているような気が…。
「アバウト・シュミット」
(2002年/アレクサンダー・ペイン監督)
ネブラスカ州オマハ。ウォーレン・シュミット(ジャック・ニコルソン)は本日定年。
時計の針が17時を示すのを待って静かに退社。善意に溢れた退職記念パーティ。絵に描いたような仕事人間退職後の退屈な日常。隣に寝ているこの婆さんは誰だ?
俺の人生に意味はあったのか?
罵倒されながらも連れ添った妻の急死、死後発覚した妻の(若き日の)不倫、男を見る目が無いにも程がある娘の婚約。
チャリティ団体のCMに乗せられて、月22ドルでアフリカの少年の養父になったシュミット。
若くは無いが定年まではまだちょいと間がある、という私自分の立ち位置が本作の“居心地”をとてつもなく悪くしています。
特に起承転結があるわけでもなく、シュミット自身に大きな変化があったわけでもなく、ただ繕うだけの日常に諦観と共に戻ってきたシュミットを迎えた1枚の紙切れ。
なんとなく感動に近い感情を覚えなくもないのですが、“たった22ドルで養父気取りかよ”感と拮抗する微妙な感覚。
「それで救われる命があるなら良いじゃないか」と思いつつ、実は「このシーンで泣いている奴を監督は哄笑してるんじゃないか」とも思い。
“人間は何かと繋がっている事が大事なんだよなあ”と思いつつ、“いや、それ以前に本当にこのアフリカの少年は存在しているのか、巧妙な詐欺なんじゃねえか”という黒い自分が頭をもたげ……。
何もかもが無駄だったかもしれないけれど、最後の最後に救い(?)を見つけた・という一発ネタで引っ張るにしては2時間越えは冗長すぎ。
因みに監督の出身地はネブラスカ州オマハ(笑)。別れた女房はサンドラ・オー。
にしても何故女はああも男を罵倒し続けるのだろう(何と言うか実に・・不快なんだ)。
※「刑事コロンボ」で有名なピーター・フォークがお亡くなりになりました(6月23日/死因不明/83歳)。どこが版権持っているのか知りませんが一刻も早く「カリフォルニア・ドールズ」をDVD(or Blu-ray)化してください。