「アカデミーが感謝している。
ハリウッドが感謝している。
独立系映画が感謝している。
だが何よりも
ワイルドで奇妙でクールでクレイジーな映画をドライブインシアターで観た地球の映画ファンが感謝している!」
茶番と言ってしまえばそれまでの2008年アカデミー名誉賞ですが、タランティーノのこの演説はちょっとグッときました。
B級カルトを誰よりも愛するタラだから許される名調子。
オスカーを受け取った本人の「妻の代理として受け取ります(ここで奥さん投げKISS)」という謝辞もまた何とも心憎い。
オスカーを受け取ったのはロジャー・コーマン。500本を超える低予算映画をプロデュースしてきたB級映画の帝王です。その実績を追ったドキュメンタリーが、
「コーマン帝国」
(2011年/アレックス・ステイプルトン監督)
B級映画の帝王と呼ばれる人の実像は(私の勝手な)想像と大きく異なっていました。
タラのようなよく喋りよく動く多動性障害のような人をイメージしていたのですが、出てきたのは冷静で寡黙で必要な事を的確に話す、そのくせ内部にはどろどろとマグマのようなものが滾っている老紳士。
低予算にも理由がありました。
ビッグバジェットの映画製作は「金は出すが口も出す」人たちとの共同作業。誰にも指図されたくないならば、自己資金で作るしかありません。
「どうしてもルールって奴を見ると…破りたくなるんだ」(ロジャー・コーマン)
低予算故の“若き映画人率先登用の場”は、結果的に“人材発掘工場”となりました。
ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、アービン・カーシュナー、ピーター・ボグダノヴィッチ、ジョナサン・デミetc.etc.
今回、最も出演時間が長かったのがジャック・ニコルソン。
「劇場に行くのは最悪の気分だよ。ロジャーとの仕事はどれもゾッとする。だがたまに間違えて名作ができる。そんな時に限って俺は出ていないけどね」
始終、悪態をついていながら「無名時代に10年使い続けてくれた」事を本当に感謝しているようで、ニコルソンの人柄が伝わってきます。
「スターウォーズは大嫌いだ。あれが死ぬほど儲けてなければ、まだ残っていたはずなんだ。妙な、緑に光る光線がね」(ニコルソン)
コーマンが低予算で作り続けてきた「大衆娯楽」を大手スタジオが大金を投じて作ってしまった。それが「ジョーズ」と「スターウォーズ」。もう誰もドライブインシアターに足を向けたりはしなくなります。
作ったのは映画学校出の青二才。だからニコルソンはルーカスともスピルバーグとも仕事をしない(ニコルソン株鰻登り)。
反面、コーマンにさんざっぱら世話になっておきながら1コマたりとも顔を出さない不忠者が、フランシス・コッポラとジェームズ・キャメロン。
そんなに「殺人魚フライングキラー」に触れられるのが嫌なのかキャメロン?
しかし、知らず知らずのうちにコーマン印の映画って観ているんだなあ…。
唯一逆鞘になった社会派作品「The Intruder(侵入者)」は機会があったら観てみたいな。