近年のアクション・ゾンビに慣れた(と言うか、そういうものがゾンビ映画だと思っている)人には退屈かもしれません。
「ゾンビ映画に理屈も説教も終末観も不要。ハラハラドキドキがあればいい」という意見もあります。
確かに「ゾンビ映画」には理屈も説教も不要かもしれません。しかし、「ロメロ映画」に理屈と説教は不可欠なのです。
そもそも、ロメロはゾンビ映画なんか撮っていません(大胆発言)。
「何か言いたい事ができれば、クローゼットからゾンビを引っ張り出して映画を1本撮ればいいんだよ」byジョージ・A・ロメロ
ゾンビはあくまで理屈と説教と愚痴と文句の小道具であって、不味い薬を子供に飲ませるための糖衣みたいなものです。
ただ今回は、金も時間もない中で製作会社にせっつかれ、脚本がこなれていないからあちこち破綻がある上にちょっと説教の比率が高くなり、こじんまりとしたスケールの小ささがそれを更に目立たせてしまった、それだけの話です。
さあ、皆で爺さんの小言を聞きましょう。
「サバイバル・オブ・ザ・デッド」
(2009年/ジョージ・A・ロメロ監督)
前作「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」のチョイ役キャラだった離脱州兵(本体離れて略奪者になった軍人集団)を主役に据えたスピン・オフ作品。
デラウェア沖にあるという“死者の蘇らない島”。しかし、そこは、蘇らないどころか、死者の扱い(とっとと始末する派vs仲間なんだから共存する派)を巡って“子供の頃からソリの合わない”老人二人が対立する“老人ホーム派閥闘争”の島でした。
どうですか、お客さん。このスケール、この世界観。
ゾンビをダシにした近未来老人版「大いなる西部」。
走るゾンビは嫌いだと常々言っていた御大がついに走るゾンビを活写!
それは乗馬ゾンビ。黒髪をなびかせて疾風の如く駆け抜ける女ゾンビは、エル・ゾンビ以来の美しさ。
まあ、文句はありますよ。
人体損壊描写はCGのアシストを得て、安いながらもアクセントになる画になってはいます。しかし、ゴアシーンとしてはまるで消化不良。もっとトム・サヴィーニを!!
各人の行動の間抜けさに関しては突っ込み始めると北斗百裂拳になってしまうので割愛。
それでも、アクション・ゲームのような大風呂敷を広げてしまった「ランド・~」よりは遥かにロメロらしい仕上がりになっているのではないかと思います(ラスト・カットの美しさったら…)。