デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

命と引き換えの1時間。 孫文の義士団

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『明後日、守って欲しい人がいる』
『分かった。一番の難所を受け持とう』
『…誰を守るのか訊かないのか?』

『明日、誰を守るのか知ってるの?』
『(首を振る)旦那様が喜んでくれればそれでいい』

さあ、男泣きの時間だよ。

孫文の義士団」(2009年/テディ・チャン監督)

1906年、英国統治領・香港。ひとりの男の来航情報が駆け巡りました。

男の名前は孫文。目的は中国各省リーダーとの革命打ち合わせ。

「生きて香港から出してはならない」。西太后の命で放たれた暗殺者軍団。

「会合が行われる1時間。何としても暗殺者を引きつけ時間を稼げ」

迎え撃つ孫文の義士団。ある者は義のために、ある者は忠のために、またある者は復讐のため、そしてある者は死に場所を求めて。

孫文到着までのカウントダウンをしながら、それぞれの想いを抱えた者たちを丹念に描く前半が素晴らしい。言わば、「荒野の決闘」+「七人の侍」(の前半部)。

クレジットは、ドニー・イエンが主役のような扱いになっていますが、彼は革命とは全く別の事情から戦いに身を投じた第三者。群像劇の脇を固める一角に過ぎません。

溜めに溜めて後半は、死力を尽くす攻防戦。ひとり、またひとりと散っていく義士団たち。

臭豆腐(しょうとうふぅ)!』

『俺の名前は、ワン・フーミンだぁ!』

死に際に名乗りを上げるのは男塾のしきたりです。死んだ時にはストップ・モーション&氏名・出身・生年没年のテロップ表示という実録路線。

誰に感情移入するかは人それぞれだと思いますが、やはり私はニコラス・ツェーが演じた車夫アスー。

字も読めない、革命も孫文も知らない。ただひたすら主の喜ぶ顔が見たいがために尽くす男。顔に傷をつけて色男を返上する気合の入れようです。

もう一人、父の女(母ではない)を愛したために身を持ち崩して路上で暮らすかつての富豪リウ・ユーバイ(レオン・ライ)。

目的も理由も聞かず、最も困難な局面を受け持ち、僅か15分という時間を稼ぐ為に命を張る男。武器は鉄扇!

暗殺者軍団に囲まれて絶体絶命と思われた瞬間、カメラの移動と共に現われた砂塵の中に佇む影。大向こうから声がかかるんじゃないと思えるかっちょ良さ。

ドニーの近代格闘を取り入れた一騎打ち(相手はK-1出場経験もある総合格闘家カン・リー)も、このレオン・ライ登場のワンカットには太刀打ちできません。

ヒロインはドニーの元妻ファン・ビンビンって事になるのですが、わたし的ミューズは車夫アスーが惚れる写真館の娘チュン(チョウ・ユン。写真中央)。

何と言うか、サントリーの烏龍茶のCMに出てきそうな朴訥可憐さがあるのですよ。

他にも、サイモン・ヤム(序盤で豪快に使い捨て)、ワン・シュエチー、レオン・カーフェイ、クリス・リーなど豪華絢爛。

孫文辛亥革命も知らないというのは問題ですが、お話そのものは完全にフィクションなので、「十三人の刺客」とか「柳生一族の陰謀」とかと同じスタンスで楽しむが吉です。

※ご参考