『迷わず愚かな道を選べ。その方が楽しい』
死屍累々の惨状が続く時代劇リメイク。ようやくアタリを引くことが出来ました。
「十三人の刺客」(2010年/三池崇史監督)
稲垣吾郎演じる明石藩主・松平左兵衛督斉韶は従来の馬鹿殿とは一味違うカリギュラ系蛮行大名。この史上最悪の殿様があろうことか老中職に内定。
このままでは民草に災いが! 幕府老中・土井大炊頭利位(平幹二郎)は、御目付・島田新左衛門(役所広司)に斉韶暗殺の密命を。
しかし、斉韶の側近には新左衛門とは旧知のキレ者・鬼頭半兵衛(市村正親)が。
『(新左衛門は)切れるというわけではない。恐ろしく強いわけではない。だが負けぬ。無理に勝ちに行かず、押し込まれてもなかなか動かず。最後に少しの差で勝つ。そういう男だ。土井大炊がきゃつめを選んだとすれば、お家にとって最も悪いクジを引き当てたという事だ』
百姓一揆首謀者の娘であったがために、斉韶に両腕・両足を切り落とされ、舌を抜かれ慰み者にされた挙句にゴミのように棄てられた女。
『その方、母や兄弟はどうなった?』という新左衛門の問いに、咥えた筆でしたためた答えは…
“みなごろし”
強烈です。脚本は「オーディション」「ぼっけぇきょうてぇ」の天願大介(父は今村昌平!)。達磨女は名刺代わり、三池印のブランド証明。
しかし、本当に凄いのは、この光景を見て思わず笑ってしまう役所広司のリアクション。
あまりの酷さに、こみ上げる怒りに、それを上回る“死に場所を見つけた悦び”に、口元がほころぶ・・演出か、アドリブか。
僅か12名の手勢で参勤交代帰路の大名行列を襲撃する大博打。
『命を惜しんだ方が負ける。預かったお主たちの命、今からこの新左が、使い捨てに致す』
格闘指南役に浪人・平山九十郎(伊原剛志)。
『そこで足を払え!戦に武士道も卑怯も無い!剣がなければ棒、棒がなければ石、石もなければ拳でも足でも使え!己が命を失おうとも相手を五体満足にしておくな!』
途中から仲間となる山の民・木賀小弥太(伊勢谷友介)のキャラ(不死身・巨根・両刀使い)はちと微妙ですが、これも三池印という事で。
オリジナル里見浩太郎の名台詞「早ければ1ヶ月足らず。遅ければ…次のお盆だ」が、ほぼそのままの形で残っていたのは嬉しい限り。
さて、これでここ数年に作られたメジャー系時代劇を一通り舐めた事になります。
「椿三十郎」「隠し砦の三悪人THE LAST PRINCESS」「ICHI」「カムイ外伝」「座頭市THE LAST」そして本作。
眼も当てられない終わりなき惨状が延々続いてきましたが、最後にようやっとまともな作品に出会えました。50分に及ぶ大殺陣(長くない!)に酔いしれましょう。
※参考:「ドリフ大爆笑?いや意外にも…。椿三十郎」→2008年11月6日
「怪獣無法地帯。 ICHI」→2009年9月25日
「薄! 隠し砦の三悪人THE LAST PRINCESS」→2010年3月29日
「意味が分からない…。 カムイ外伝」→2010年10月19日
「ふふふふざけるな! 座頭市THE LAST」→2011年5月9日