『寂しい? 寂しいって何? 私には分からないわ』
お気に入りの小説が映像化されるのは嬉しい反面、裏切られた時の悲しみ(と怒り)も大きく、大抵は「オメー本当に原作読んだのかよぅ」と悲嘆に暮れる事になります。
絶対にハズす、ハズしているに決まっている、と言う本能的確信で回避しておりましたが、私が間違っておりました。
よくぞここまで原作のイメージ通りの映像を。天晴れです。
「Lie lie Lie」(1997年/中原俊監督)
原作は中島らもの「永遠(とわ)も半ばを過ぎて」。
波多野善二(佐藤浩一)は電算写植屋。ひたすら愛機“一休”に向かって文字を打ち続ける日々。
相川真(豊川悦司)は詐欺師。嘘を金に換える言葉の錬金術師。ちょいと訳アリで記憶の彼方の旧友、波多野の家に緊急避難。
ある日、睡眠薬でラリった波多野が目覚めると、電算写植機・一休から見覚えのない原稿が大量に打ち出されていました。
“永遠も半ばを過ぎた。
私とリーは丘の上にいて
鐘がたしかにそれを告げるのを聞いた。”
宇井美咲(鈴木保奈美)は文芸新社の編集者。目の前にあるのは、写植屋と翻訳者を名乗る男二人が持ち込んできた妙な原稿。17世紀の詩人ペイシェンス・ワースの霊が写植屋に憑いて書かせたものらしい。幽霊文学?
ここに写植屋・編集者・詐欺師のトリオが誕生。やがて“幽霊が書いた小説”「永遠も半ばを過ぎて」は、出版会を巻き込んだ事件に発展していきます。
『その話をすると長くなるけど、もう一度言うわ。会社なんてクソ喰らえなのよ』
改めて原作を読み返しましたが、台詞・間合いなどほぼ原典のまま(クレジットも脚本ではなく脚色)。
相川がいい男過ぎるのと美咲がいい女過ぎるのが原作イメージと相反しますが、映画的にはこれで正解。
相川が抱えるトラブルの原因である関西ヤクザの娘キキの描写がやや冗長なのが唯一の難点。ここをうまく摘まんであと5分短くなっていたら文句無しでしたが、それは贅沢と言うものでしょう。
『寂しい? 寂しいって何だ。俺には分からない』
もし、原作を読みたいと思われる方がいたら文庫ではなくハードカバーをお薦めします。
作中で作られる本の装丁(黒のクロスで文字は銀の箔押し)がそのまま使用されています。手触りを楽しみながら読んでください。