まず原作版「ワイルド7」をご用意ください。
次に、ここから“エロ”と“暴力”のページを全て破りとってください。
残った残骸に“恋愛”と“内省的独り言”と“守りてぇんだよぉ!”を加えてください。
はい、完成です。
「ワイルド7」(2011年/羽住英一郎監督)
巨大なトレーラー後部から次々発進する7台のバイク。
ハイウェイを一瞬逆走するも即座にスピン・ターン。トレーラーを追い越して爆走。
お、何だ、いい感じじゃん、と思いましたが、観られたのはここまで。
ターゲットは逃走中の銀行襲撃犯人グループ。しかし、何故か先に追い付いたのはトレーラー。
犯人の一人を射殺。直後に轢殺。どう考えても撃ったのはトレーラーの運転手ですが、誰が運転しているんだ、そのトレーラー。
それに、あんなでっかいモノが爆走して来ているのに、轢かれるまで気づかない犯人ってどうよ(音速で走って来たのなら分からなくもないですが)。
で、トレーラーが逃走車をささらもさらにした所でようやくバイクが到着。
瑛太の飛葉は、“お兄ちゃんの革ジャンを借りた中学生”にしか見えません。
面子は7人いますが、キャラが割り振られているのは飛葉とセカイ(椎名桔平)だけで、残りは“その他大勢”。
最終的な悪役になるのは、あらゆる個人情報の閲覧が許される公安調査庁情報機関(通称:PSU)の情報分析部門統括者・桐生圭吾(吉田鋼太郎)。
まるで三文オペラのような朗々とした台詞回しで、舞台演技を越えた臭さを撒き散らし、大物悪党っぷりを主張しますが、やった事は“細菌テロに乗じてワクチン開発企業の株を買い占め売り抜ける”という単なるインサイダー取引。
なんだい、そりゃ。すげー小物じゃん。大物はこんなにぺらぺら喋らないよ。ただ立っている引きの絵だけで只ならぬ威圧感を放っていた「日本列島」の大滝秀治を見習ってくれ。
クライマックスは、情報操作で犯罪者集団に仕立て上げられたワイルド7が、PSU本部に殴り込みという昭和残侠伝な展開(結局、箱庭アクションかよ!)。
ここで、桐生が「SATに出動を要請しろ!」とか言っているのですが、出てきたのは何故かSIT(全員背中にSITと染め抜かれたジャンパー着用)。
なあおい、SATとSITの区別くらいつけてくれよ。
またこいつらが全然統率のとれていない烏合の衆で、単なる蹴散らされ要員。これじゃショッカーの戦闘員じゃないか。対テロ訓練受けたプロなんだろ、一応。
狙撃銃のレーザーポインターが束になってワイルド7を狙うカットがありますが、ありゃどこから狙っていたんだ。突入隊が窓ガラス破った時、窓には全面ブラインドが下りていたぞ。最近のレーザーポインターは、ブラインドを貫いて標的を捉える事ができるのか。
本間ユキ(深田恭子)のキャラは原作の「コンクリート・ゲリラ事件」から引っ張って来ているので、存在自体はOKですし、深キョンを当てたのもナイスな人選だとは思いますが、もっと魅力的に描けたはずだろ。勿体無い。
唯一、中井貴一の草波勝は原作のイメージに近く、冷徹な雰囲気を醸し出しておりました(中井貴一の実力を考えれば出力20%以下のエコノミー演技だと思いますが)。
で、ダメ押しがエンド・クレジットのオフ・ショット。
出演者全員がカチンコ片手にヘラヘラ笑いながらくるくる踊って…いやあ、ここまで馬鹿にされた気分になったの久しぶり。
こんな事なら非難上等・失敗覚悟で三池に撮らせたかったなあ…。