『怪物…ベーカーズ・ダズン、廃棄物13号。色んな名前で皆が呼ぶけど、私にはあの子の名前はひとつだけよ』
DVDで観た時は、あまりに地味な展開と簡素化されたキャラ造型に引っ張られ「随分と平坦な画作りだなあ」などと思ってしまいましたが、とんでもない間違いでした。
何と言う描きこみ。手前から奥まで「どんだけ手間かけたんだよ!?」な情報量。
“バビロン・プロジェクト第三期工事断固阻止!”という立て看板があるので、劇場版1作目と2作目の間の話ともとれますが、年号が平成ではなく“昭和75年(西暦2000年)”となっているので、パラレル・ワールドと見た方が良いでしょう。
つまり完全な別物という事です。
「WXⅢ 機動警察パトレイバー[Blu-ray]」(2001年/高山文彦総監督)
本作に駄目出しをされている方の多くは「パトレイバーを名乗っておきながら特車二課がほとんど登場しない」という点を非難しているのだと思います。
確かに出てきません(もう見事なほどに)。
前半にチラッと野明と遊馬が顔を出しますが、仰向けイングラムが写るのが76分頃。起動イングラムに至っては何と86分を経過してから(全部で100分の映画ですよ)。
更に、主役を務める刑事二人は今回初登場のニューフェイス(ひとりはおっさんですが)。
松井刑事とその部下でもお話は成立したはずですが、敢えて「誰や、あんた?」なキャラ登板。正にシリーズとはかすりもしないパトパト詐欺。
しかし! 前述したように、本作はスピン・オフを素通りしたパラレル・ワールド。
ちょっと見方を変えてみましょう。
刑事ドラマだと思っていたら、途中で野明と遊馬がエキストラで登場。おっと、この話は「パトレイバー」と同じ時間軸で展開しているのか。何とラストにはイングラムまでゲスト出演。しかも相手は怪獣だ。何と言う大盤振る舞い!
くらいに考えるともの凄く得した気になるじゃないですか(え、ならない?)。
「特捜最前線」を見ていたら、いつの間にか「怪奇大作戦/京都買います」と「ウルトラQ/甘い蜜の恐怖」が混じって、最後には「西部警察」が応援に駆けつけてくれた、みたいなもんです(断言)。
ストーリー自体はかなり有り体で、本来大人の悲恋を演じるべき刑事・秦と岬冴子の描きこみが恐ろしく上っ面なので、むしろそっちの方の不満が残ります。
男女の話なのに肉体的接触がなさ過ぎ(1つの接触は10の心情エピに勝る。はっきり言えばセックスをしろという事だ)。
反面、先輩刑事・久住の自宅や町並みなどのディテールはとんでもなく緻密。アニメとしてのクォリティは半端無く高いです。
特に都会のビル群を墓標に見立てたラストカットは、「2」のエンディングを超えたとすら思います。
押井・伊藤の頚木が外れた鬼のいぬ間の実験作だったのだと思いますが、もう続編ってできないんでしょうか…。