「男しか出てこない映画に駄作無し」(淀川長治)
法則発動です。殺し合いながら認め合う男と男。叡智の限りを尽くした攻防戦。
男祭りが静かに滾る。
「眼下の敵」(1957年/ディック・パウエル監督)
第二次世界大戦中の南大西洋。バックレイ級護衛駆逐艦ヘインズは、浮上航行中のドイツUボートを発見。
ヘインズの艦長は民間登用のマレル(ロバート・ミッチャム)。
Uボートの艦長は第一次世界大戦からの叩き上げ、シュトルベルク(クルト・ユルゲンス)。
どちらも戦争で家族を失い、しかし敵国に対する復讐心は持たず、戦争に対する疑問と諦観を持ちながら職務に忠実たらんとするプロフェッショナル。
『前の大戦は祖国に鉄の礎を築いた。勇ましい思い出を残し、敗北ですら栄誉だった。しかし、この戦争に栄誉はない。勝っても醜悪なだけだ。死ぬ者は神に見捨てられて死ぬんだ。分かるか?』
この二人がひたすら相手の動きを読み、裏をかき、仕掛け、かわし、また仕掛ける。
その動きから互いに相手艦の指揮者が只者でないことを知る過程がスリリング。
『レーダー電波の向こうに頭脳を感じる…』
この頃の戦争映画は、実機・実艦・実装備が惜しげもなくバンバン登場するのが大きな魅力。本作も国防総省と海軍が協力しているだけあって、大盤振る舞い。
8基あるヘインズの投射機から撃ち出される爆雷による水柱の豪快なこと。
騎士道精神に貫かれたやりとりは最早ファンタジーなのかもしれませんが、戦争の寓話と捉えれば、それもまた味わいです。
『死も任務の一部だが、我々は死なない。信じるか?! 私を信じるか?!』
死と隣り合わせの状況で命預ける価値のある上司とは?
これ、今リメイクしたら、いらんエピソードてんこ盛り(家族・恋人・人間関係の軋轢、差別その他諸々)のグダグダ企画になってしまうでしょうね。
命のやり取りだけを真摯に隙間無く描ききった98分。見応え満点です。