クロエ・グレース・モレッツによるリメイク版の予告を見たら、久々に本編を観たくなりました。
今更ではありますが、なんと言う完成度! 役者、演出、撮影、音楽、編集、どれが欠けてもここまでの仕上がりにはならなかったでしょう。
「キャリー」(1976年/ブライアン・デ・パルマ監督)
本作のDVDにはかなり気合の入ったドキュメントが収録されています。
ジョージ・ルーカスと共同開催だったオーディション。
ルーク・スカイウォーカー役を獲りに来て、デ・パルマに引っこ抜かれたウィリアム・カット。
他の女優にほぼ決まっていたキャリー役を、ノーメイクの上、髪にワセリン塗ってカメラテストに望み、気合でひっくり返したシシー・スペイセク。
結果論になってしまいますが、若手俳優たちの錚々たる顔ぶれ。
ジョン・トラボルタ、ナンシー・アレン、ジェイミー・アービング、P・J・ソールズ。
そして「ハスラー」以来15年ぶりに銀幕復帰したパイパー・ローリー。
実は当初本編には、キャリーの少女期の描写があったそうです(写真一番上)。
頭にでっかいリボンつけただけで少女と言い張るシシーも大概ですが、ああ、少女なんだなと思わせる(有無を言わせぬ)説得力があります。
母親の虐待を受けたキャリーが砂利の雨を降らす、というシーンで、高校生になったキャリーがラストで石の雨を降らせて家を押し潰す、という流れになるはずでしたが、諸般の事情で少女期はカット、家は炎に包まれることになりました(石の雨も降ってはいますが)。
原作では念力で心臓を止められるパイパーがキッチン用具(ワイヤーを使って飛んでくる)で磔になるのは監督のアイデア。黒澤にインスパイアされたんだとか(「蜘蛛巣城」でしょうね、きっと)。
BATESハイスクールは予想通り「サイコ」の引用。ピノ・ドナッシオもバーナード・ハーマン・リスペクトな効果音(キュンキュンキュン)を献上しています。
スプリット・イメージは監督曰く「失敗」だそうですが、公開当時はとてつもなく斬新でした(使い方そのものは「ブロウアウト」あたりの方が上手です、確かに)。
幸せの頂点とも言えるプロムの恍惚が、バケツの紐を引く恍惚に破られ、連鎖した絶望が友も恩師も焼き尽くす。
初めて母の腕にやさしく包まれた恍惚は包丁の一振りによって絶望に変わり、母に投げつけた絶望の礫(つぶて)は没我の愉悦にも似た死を与え…。
緊張と緩和の波状攻撃。
語り草になっているラスト。狂乱するエイミー・アービングを抱きしめているのは実の母でもあるプリシラ・ポインター。
「娘の取り乱した姿なんか見た事がないから、つい役名じゃなくてエイミー!って呼んじゃって。でも私の台詞は音楽にかき消されていたわ。それに劇場は10分以上も悲鳴が続いていたから、どっちにしても聴き取れなかったでしょうね」(プリシラ)
クロエ版の予告では、破壊の範囲が町全体に広がっていて、より原作に近い展開になるようですが、オリジナルのハードルはとてつもなく高いぞ。