土佐勤王党・岡田以蔵。後に司馬遼太郎によって“人斬り以蔵”と名づけられた幕末の殺人機械。
史実準拠ではなく、司馬遼準拠の人斬り以蔵半世紀。
「人斬り」(1969年/五社英雄監督)
まずは製作がフジテレビであること、そして五社監督がフジテレビの社員だったことに驚きましょう。
かつてのフジテレビには、骨太なドラマをきっちり作りきる力がありました。
本作、決して勢いだけで作っているわけではない丁寧さを感じます。
暗殺時の刀の照り返しまで綿密に計算したライティング。
狭い路地で胴太貫を斬り上げた際、奥の連子まで斜めにかっ斬っていく構図の妙。
以蔵が11里の韋駄天走りを見せた時の足元の砂煙。
人を斬った後にかざした刀を伝う血糊が珠になっている(水っぽい雫が垂れるのとは違う濃さの演出)、などなど。
理想も持たず、天誅の意味も知らず、ただ武市半平太(仲代達矢)の捨て駒として死体の山を築いていく以蔵(勝新太郎)も素晴らしいですが、印象一番は薩摩藩士・田中新兵衛を演じた三島由紀夫。
“人斬り以蔵”と並び称された“人斬り新兵衛”。
以蔵の剣が力任せにぶった斬っていく豪腕派なのに対して、新兵衛の剣は実に無駄の無い必要最小限の動きで相手を倒していく効率派。
冷徹な風貌と相まって正に“殺人機械”。
新兵衛は姉小路公知暗殺の疑い(劇中では武市の謀略で殺ったのは以蔵)で尋問中に割腹。
三島が市ヶ谷駐屯地で割腹自殺したのはこの翌年。まるで予行演習です。
終盤、以蔵が過去の暗殺履歴を告白する場面がありますが、史実は「拷問に屈してゲロった」だそうです。
刑罰も磔獄門ではなく、打ち首獄門。事実は東スポより奇なり、です。
三池監督の「IZO」とセットでどうぞ。
※参考:「天誅!(そして友川かずき万歳!) IZO」
→2011年5月6日