
たとえ本編を観た事がなくとも、人面月に砲弾ロケットが突き刺さっている絵柄を見た事がないという人はいないであろう、始まりの映画。
「カリガリ博士」「ノスフェラトゥ」「アンダルシアの犬」「メトロポリス」に先立って通らねばならない映画の旅の一里塚。
「月世界旅行[カラー版/活弁版]」(1902年/ジョルジュ・メリエス監督)
僅か16分の空想科学特撮ドラマ。そのカラー版がWOWOWで放送されました。
人工着色の不自然さがSF映画という異世界感を際立たせています。
未だクローズアップなどの技法は生まれていないので、全編引きのアングルになっていますが、その分、実に構図が練られています。
遠近法の多用など画作りが独特(月を狙ったロケット発射用の砲身とか見事です)。
月の顔にロケットが突き刺さるシーンでは右目の部分から赤い液体が…。
「うわ、血だ、血だ…」
体液が赤くなるだけで、こうも生々しくなるとは…。
月には勿論、月星人が…(イメージは完全に現地人って奴ですが)。
行きはロケットで打ち上げられましたが、はて、帰りはどうする気なんじゃろ?と思ったら、何と月から地球に“落下”。
月世界旅行が夢のまた夢であった時代ならではのセンス・オブ・ワンダーです。
音楽がやたらモダンだと思ったら、AIR(エール)とか言う人の完全新録音でした。
このカラー版には活弁士の語りが付いた「活弁版」も存在します。
WOWOWの放送では澤登翠さんが活弁を担当しておりました。
国際的に活躍しておられる重鎮のようなのですが、残念ながら私の耳にはしっくり来ず。
カメラが引いている故、ただでさえ画面に映りこんでいる人物が多いというのに、その台詞を適当にアテレコしているから、全く落ち着きの無いチャカチャカした印象に。
スラップスティクな笑いを狙ったのかもしれませんが、クスリとも来ませんでした。うーむ、活弁ってこういうものでしたっけ?
どちらかと言うと、“嗚呼、春や春、春南方のロォマンス”みたいな雰囲気盛り上げ系、状況説明系を期待しておりまして。個々の台詞の当て込みとかはどうでも良かったのですが。
しかし、これはこっちの勝手な期待。あれこそが活弁!という評価の方もいらっしゃるでしょう。
改めてモノクロ版(パブリック・ドメインになっているのでネットで拾えます)も観てみましたが、やはりモノクロ/サイレントがしっくり来ますね。私には。
※字幕付きモノクロ版はこちら→http://www.youtube.com/watch?v=HSZ8QmCOAX4