精神病院、と言っても悪さをしてしまった精神障害者を収容している保護施設。
狂暴系多数なだけあって、造りは堅牢(外観は「建物探訪」に出てきそうな小洒落たデザイン)。
勿論、セキュリティは万全。しかし、このセキュリティが思わぬ落とし穴に…。
「ザ・インシデント」
(2011年/アレクサンドル・クールテ監督)
俺の名はジョージ。売れないバンドマンだ。
彼女はやさしいけど、将来のビジョン無し、ライブもイマイチ。スタジオ借りる金も無し。
仕事と言えばバンド仲間とやっている精神病院の厨房作業のみ。
患者は危なそうな奴らばっかりだけど、食堂と厨房は強化ガラスで隔てられているし、通路はひとつドアを通る毎に施錠しているから安心だ。
ある嵐の夜、落雷で突如停電。施設内の全ロックがお釈迦になっちまった。フィラメント系の電球も全部パー。
僅かな非常灯のみという薄暗がりの中に多数の患者が徘徊している。いつもなら安定剤飲んでゾンビ状態のはずだが今日は皆やけに元気がいい。
クソ、強化ガラスを叩き始めやがった。大丈夫、割れはしないさ。
そう言えば、食事の時、グリーンの奴が薬を飲まずに吐き出していた。奴だ。奴が煽動して暴動を起こしているに違いない。
という狂暴系キチガイvs売れないバンドマンin精神病院というパニック・スリラーです。サジ加減によっては「要塞警察」のようなストレートなB級アクションに化けたかもしれませんが、仕上がりはかなり混沌。
まず、停電が起きるまでが長い。
全85分という尺なのに、ジョージの私生活に前半延々45分! 一杯一杯の暮らしぶりはラストの伏線と言えなくもないのですが、それにしても長過ぎ(1回挫折しました)。
もうひとつ、本作には構造上の特徴兼欠陥が(すみません、以下ネタバレです)…。
暴動の首謀者と思しきグリーンは、他の患者を操ってジョージの仲間を刺し殺したり、ガスレンジで焼き殺したりするのですが、実は暴動発生間もなく殺害されている事が後になって分かります。
何度か床に転がっている死体の手(指がフレミングの左手の法則みたいな特徴ある形に曲がっている)が映るのですが、その手の持ち主がグリーンでした。
ジョージはグリーンの凶行を目撃し、自らも拉致されたりしているわけですが、少なくともその一部または全部がジョージの幻覚もしくは妄想であった可能性が高いのです。
では、どこからどこまでが妄想だったのか。
その辺りが実に曖昧模糊。ラストにちょっとびっくりなシーンを持って来たかったのは分かりますが、もう少し腑に落ちる描写を挟んでくれないと驚くより「はあ?!(怒)」な感情の方が強くなってしまいます。
暴徒と化した精神障害者というのはなかなかに良識派の神経を逆撫でするナイスな素材ではありますが、オチの付け方が投げっぱなしなのが難。
ロブ・ゾンビ版「ハロウィン2」のエンディングあたりを意識したのかもしれませんが、“独りよがりな思わせぶり”の域を出ていないのが残念でした。
ところでいい加減、母音の前の定冠詞を「ザ」と表記するのやめませんか。