
「いいか、風をなめるな。人が死ぬ事もある。これはこの村の戦争なんだ!」
日本のどこかにある“風つかいの里”。
年に一度の夏祭りは、向こう一年の風向きを決める一大神事。
中学の数学教師・大気の生まれ故郷である“風つかいの里”を訪れたデジカメ部のナオ、ミキは、自らも風を操る力を得る事に…。
と書くと、何やら物凄いドラマの始まりのように聞こえますが、何も起きません(笑)。
それはまるで思春期を吹き抜けた一陣の風。
「風人物語」(2004年/西村純二監督・押井守監修)
Production IGによるテレビアニメ(全13回)。
デジカメ部の部長・ナオは雲の写真ばかり撮っている変わり者。
「雲を撮るって事は、風を撮るって事なんだよ」
ある日、校舎屋上にどこからともなくやってきた一匹の猫を追って手すりを乗り越えたナオは誤って転落。見上げる空には風に舞って飛んでいる何匹もの猫が…。
地面激突直前、ナオを抱き上げるように捉えた風。視界のすみには数学教師・大気の姿…。
風つかいとなったナオ、ミキ、ミキのボーイフレンド・潤、そして一足先に大気から風の扱いを学んだ涼子。彼女らの日常が淡々と描かれていくのですが、最終回だけはビターな大人の回でした。
「第13話・雪緒ふたたび」(西村純二脚本・絵コンテ、川崎逸郎演出)
風の里の女・雪緒。大気の義姉で未亡人。着かず離れずの曖昧な関係。
その雪緒が大気の学校にやってきた。その影響で風の制御が出来なくなるナオら。
雪緒と逢った瞬間、号泣してしまう涼子(彼女は風の里に行っていないので、雪緒とは初対面)。いつの間にか、風を操れるようになっている保険医。屋上で佇む雪緒と大気。
「帰って来るんでしょ、夏」「ああ、帰らにゃ…」
この本質に触れそうで触れない会話は実につげ義春的。
合間合間に挿入される高校生ナオ、女子大生ナオの点景。その足元には風猫。
毎日、保健室に逃げ込んでくる仮病教師の「潮時…かもしれませんね」
何かを終わらせ、何かを始める。その繰り返しが人生なのでしょうか。
気のせいか、本作、押井守のジブリ作品(特に「耳をすませば」と「となりのトトロ」)に対する返答書のような気がしてなりません。
アナログでレトロな筆致と相まって印象深い作品です。