『今夜、あたしとプロムのダンス・パーティに行かない?』
『あ、ごめん、先約があるんだ』
《なんですって…。この私が誘っているのに他の女とプロムに行く? 私が傷ついてもお構い無しって事? そんな事が許されると思って? 勿論許されないわ。見ていなさい、私のプロムは私が仕切る。お父さん、手伝って!》
「ラブド・ワンズ」(2009年/ショーン・バーン監督)
『なんだと! 俺の娘の誘いを蹴っただと! そんな奴はクロロホルムで眠らせてお持ち帰りだ!』
『ああ、お父さん、素敵!』
『どんなもんだ。じゃ、まずは声帯潰して声出ないようにして…ほら、これでもう』
『(二人でユニゾン)♪何にも聴こえな~い!』
『ちゃんと正装しなくちゃ。プロムだもの。あと、彼の胸に大きなハートマークを刻みましょう』
『逃げないように脚は床に釘付けしちゃおう』
『額にはドリルで従順の刻印を! 嗚呼、私だけのプロム・ナイト!』
いやあ、書いていて自分の人間性を疑っちゃうなあ…。
男が単独犯で娘を拉致監禁拷問ってパターンは山ほどありましたが、娘が父と結託してイケメンを拉致監禁拷問ってのはあまり聞いたことがありません。
これはひょっとして“トーチャーもの”の新しい潮流なのか。
男が反撃に転じる時のアドレナリンの滾り具合は半端無いですが、“普通の”人はそこに辿り着く前にギヴしちゃうかもしれません。
父娘揃って手際が良すぎ。お前ら絶対今回が初めてじゃないだろう? と思ったらその通りでした。
床下の空間には“飽きられた花婿たち”が…(だから、ラブド・ワンズ-彼氏たち-なのか)。
ゲストを椅子に縛り付けて食卓を囲む家族の肖像は避けては通れぬお約束(いい感じに完コピしています)。
やっている事は笑っちゃうくらい鬼畜ですが、作り方は極めて正攻法。
加工過多な映像、奇をてらった構図、チャカチャカした編集といった新人監督が陥りがちな勘違い(俺ってスタイリッシュ?)を巧みに回避して腰の据わった画作りをしています。
ホラー・クラシックへの目配せ、緊張と緩和のバランス、ノイジーなのにかっちょいい音楽なども“お上手”。
表層的には「キャリー」+「ミザリー」ですが、監督自身は「フットルース」を意識して撮ったそうです。
舞台は「ストライク・バック」に続いてオーストラリアの田舎町。
どこの国も田舎には人を狂わせる“町フェロモン”が漂っているようです。
DVDには特典としてバタリアンズ(山口雄大&井口昇)のコメンタリーがついていますが、相変わらず最低の内容(←褒めています)で楽しませてもらいました。