その原題(Mondo Cane)からモンド映画(必殺シリーズの事じゃないよ)の語源となったトンデモ映画…なのですが、ゲテモノと割り切るのはどうにも抵抗があります。
哀切にして滑稽。デタラメなのに美しい。
「世界残酷物語[超完全版]」
(1962年/グァルティエロ・ヤコペッティ監督)
世界各地の奇行・風習を並べたドキュメンタリー…だと信じている人は今やほとんどいないでしょう。
監督に言わせれば、この映像の元になる事象は確かにこの目で見た、それをカメラを通して再構築しただけだ、だから全て事実なのだ!って事のようですが、そんな一理はあっても二理はない論理を鵜呑みにするほど現代人は牧歌的ではありません。
本作は過激に演出された再現フィルム(もしくはヤコペッティの念写)です。
あからさまな仕込み、ヤラセ、過剰演出、画は本当だがナレーションが嘘八百…など様々な加工が施されていますが、映像と音楽(モア)の美しさが全ての茶番を塗りつぶしていきます。
本作で最も有名なのは“放射能で方向感覚を失ったウミガメが、産卵後、海ではなく内陸に向かって前進し続け、飢えと疲労で死んでしまう”というアレでしょう。
砂漠を進むカメ。すぐそばには朽ち果てた先輩ガメの白骨死体。何故か白骨は仰向けになっています。
やがて砂と太陽に照らされて力尽きるカメ。カットが変わるといつの間にか仰向けに…。
疲労困憊したウミガメが平地で仰向けになる、などという事があるのでしょうか。
ないと思います。人間が仰向けにしない限り。
ラストを飾るのはアボリジニのカーゴ・カルト(飛行機信仰)。
死者しかいないはずの天空から舞い降りてきた飛行機。当然、乗っているのは死者(ご先祖様)だ。積荷はご先祖様からの贈り物に違いない。しかし、飛行機は白人の滑走路に降り立ってしまった。違う!そこじゃない!こっちだ!ご先祖様!
原住民たちは飛行機の模型を作り、かがり火を焚き、飛行機が正しい場所に着陸する日を待っています。
キメのナレーションはこうです。
“彼らは村を壊し、仕事も棄ててしまいましたが、それもこれも大空の入り口で忠実に飛行機を待つためなのです”
夜空を見上げる原住民。管制塔を模した櫓のシルエットに被さる女性コーラス。美しい。そして哀しい。そして嘘だ。
村壊した上に働かなかったら全員死んでしまうだろう!
でもね、観ているときは何故か「嗚呼、何て哀しい話なんだ」って思っちゃうのよ。映像と語り口の見事さに舌を巻きます。
「世界残酷物語」で思い出すのは何と言っても1978年8月23日の「水曜ロードショー」(流石に日付は覚えていないのでWikiで調べました)。
正確には「世界残酷物語」「世界女族物語」「続・世界残酷物語」の残酷トリロジー総集編だったのですが、ナレーションをタモリがやっておりました。
78年8月と言えば、まだ日本版モンティパイソン終了から2年足らず。アングラな密室芸人時代です。
「世界女族物語」の全身刺青少女のエピでは「痛そうですね~。おじさんが後でナメナメしてあげるからね~」(←記憶に頼って書いています)。
ヤコペッティのいかがわしさを知っている今なら「よくぞ選んだ!日テレグッジョブ!」ですが、当時のお茶の間の反応はご想像の通りです。
ソフト化…しないよね。
因みに「超完全版」は「劇場版」(91分)より17分、既発DVD「ノーカット完全版」(98分)より10分長い108分バージョン。
どこがどう長くなったのかは…分かりません。
※参考:「ヤラセ無し(断言)! 食人族」→2010年6月1日