『世界の終りが迫っている。どこで死にたい? ここか!? イエーガーの中か!?』
“カイジュウ”という単語を全世界に広めた小太りなおっさんの心には兜甲児が宿っていました。
(「戦って戦って、それでも駄目なら、マジンガーZと一緒に死ぬだけです!」)
色々と文句もありますが、心意気は確かに受け取りました。
「パシフィック・リム」
(2013年/ギレルモ・デル・トロ監督)
太平洋深海の裂け目から突如現れた巨大生命体“カイジュウ”。
人類は持てる英知を結集して巨大人型決戦兵器“イエーガー”を開発。形勢は一気に逆転したかに見えましたが…。
パイロットが乗り込んで操縦(操作型ではなく動作連動型)するというのは、「ロボ・ジョックス」の系譜ですが、大きすぎる負荷を分散させるため、パイロット2名が記憶をシンクロさせて右脳・左脳を分担する、というのが新機軸。
兄ヤンシーと共にイエーガー“ジプシー・デンジャー”を操るローリー(チャーリー・ハナム)は歴戦のつわもの。今日も軽い気持ちでカイジュウ退治に出動しましたが…。
ベースになっているのが日本の特撮&メカジャンルなのは誰の目にも明らかなので、影響元(直接的なパロディやオマージュとは違うのでネタ元とは言いたくない)は各自想像しながらお楽しみください。
ヒントが欲しい人は、BD/DVD収録のデル・トロ監督音声解説を。
もう、どんだけ好きなんだよニッポン、な想いのたけが詰まっています。
まず出てきたのが田中友幸。円谷、本多を引き合いに出す人は多いかもしれませんが、“タナカさん”から始める外人は珍しいのでは?
ここから渡辺明、中島春雄を紹介して、カイジュウデザインの着眼を解説。つまり、気ぐるみに人が入って動かしているように見えるデザインを心がけた、と。
もうひとつ、成田亨的アプローチも試みたと言っていますが、それが成功しているかどうかはちょっと…。
ただ、1匹目のカイジュウが現れた時のシルエットと、ウルトラマンOPで成田亨の名前が出る時の影絵(ネロンガでしょうか)が似ていたので並べてみました。
(デル・トロ監督のお気に入りは、ピグモンとバルタン星人だそうです)
イエーガー発進シーンのお手本は「サンダーバード」。
「サンダーバードは、ウルトラセブンにも影響を与えているんだよ」
確かに「FORCE GATE OPEN OK LET’S GO!」に代表される各機発進のシークエンスはそんな感じですよね(そんな事指摘する外人って…)。
私は、ジプシー・デンジャーの頭部操縦室が勢い良く降下して本体にドッキングする時に思わず「パイルダー・オーン!」と叫んでおりましたが。
「日本人はあらゆるものに魂が宿ると信じている。マジンガーZという名前にも超自然的な存在の意味を含んでいるんだ」
「マジンガーがなければこの作品もなかった」
嗚呼、やっぱりご覧になっていましたか。因みにジプシー・デンジャーの必殺技“エルボー・ロケット(肘からロケット噴射してパンチの威力を倍加させる)”は、吹き替えの折、現場にいた声優満場一致で「ロケット・パーンチ!」に変更されたそうです。
横山光輝の「鉄人28号」にも言及。最早、映画の解説なのか日本の特撮・メカアニメ史の講義なのか分からなくなってきます。
カイジュウの電磁パルス攻撃ですべての機材が稼動不能になった時に、旧式のジプシー・デンジャーだけが原子力駆動で戦闘続行出来たって設定は絶対OVA版「ジャイアント・ロボ」だよなぁ。
ロシアのイエーガー“チェルノ・アルファ”はT型戦車がモチーフなんだとか。頭部の形状からして初期モデルだと思うので“T-18”を並べてみました。似てますね、確かに。
本編クレジットの最後には、“この作品を、モンスター・マスター、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧ぐ”と献辞されています。
カイジュウとただの巨大生物の線引きには、人格が認められる(何かのメタファーになっている)か否か、という要素があると思いますが、この作品からそういう意味合いは感じ取れませんでした。デザインも微妙(これは各イエーガーも同様。私に「うおお、フィギュア欲しいぜい!」と思わせられなかった時点で負け)。
という軽い文句はあるのですが、ここまで熱い偏愛を披瀝されて細かい揚げ足とる奴はただのひとでなしです。
「お子様向け」という批評もありますが、監督が「僕が撮りたかったのは11歳の僕が観たい映画だ」って言い切っているので仕方ないです。童心に帰ってカイジュウバトルを楽しみましょう。
21日発売の映画秘宝ベスト10で堂々1位(読者ベストと併せ2冠)。