今日も川に入る。目の前で子供が喰い殺された川に。そこが生活の場所だから。
ここはブルンジ共和国。
フツ族とツチ族が内戦を繰り広げる殺戮の国。そして巨大な人喰いワニ“グスタヴ”が闊歩する悪夢の国。
「カニング・キラー/殺戮の沼」
(2007年/マイケル・ケイトルマン監督)
ガセの政治スキャンダルに飛びついてマズイ立場になってしまったニューヨークのテレビ局報道部プロデューサー、ティム(ドミニク・パーセル)。
始末書代わりに上司が出した指令は「ブルンジ行ってドキュメンタリー撮って来い」
『あそこで国連軍の女性がワニに喰われたのは知ってるな? 取材して来い。ついでにワニ捕獲しろ』
捕獲? 何を言って…いやそれより、あそこは今、内戦の真っ只中だろ。
『停戦協定中だ。安全だよ。クビかワニかだ。どうする?』
という訳で、ティムはネイチャーなレポーター、アビバ(パソコン教室ではない)、人よりワニなアリゲラバー、マット、そしてカメラマンのスティーブンを伴ってブルンジへ。
軍に護衛されて川を遡行、北部へ。そこは“リトル・グスタヴ”と呼ばれる独裁者が支配するフツ族の民兵エリア。
いきなり“休戦協定って何?”な銃弾の洗礼。辿りついたルワンダ国境付近に広がるキビラ湿地帯には、日々是人狩りな民兵と日々是人喰いな大ワニが待ち構えておりました。
ワニより内戦の比重が高いことに不満の声をあげる向きもあるようです。
確かに猛獣パニック映画としては、政情描写は余計かもしれません。しかし、安全を過信して人の国に土足で上がりこむと痛い目を見るよ、という寓話だと思えばワニと民兵は等しくその国の側面であり、謂れ無き暴力のメタファーとして相互補完する理不尽の象徴です。
人喰いワニ、グスタヴは出番はそう多くはないものの、出てきた時のインパクトが半端無いので、そこそこの満腹感は味わえます。
個々のエピを無駄に引っ張らず、ブラックアウトでサクサク繋いでいく編集もいい感じにダレないリズムを作っています。
驚いたことに、この人喰いワニ、グスタヴ(GUSTAVE)くん、実在しているそうです。
WIKIによれば“GUSTAVEとは、ブルンジのタンガニーカ湖およびルジジ川に生息する巨大なナイルワニの固体名(固有名詞)”との事。
犠牲者300人超、体には機関銃や拳銃による弾痕、ブルンジの内戦中に川に遺棄された戦死者の遺体を食べたのをきっかけに人の味を覚えた体長6m超の巨大ワニ。
今尚存命中(100歳を超えるという説もある)の文字通り生ける伝説です。
お安いB級CGパニックものかと思いきや、シリアス路線のサスペンス・スリラーでした。