デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

しょぼーん。 8マン~すべての寂しい夜のために

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一度観てみたいと想いつつ機会が無く、DVD化を待とうにも版元のリム出版が(この映画のせいで)倒産しているのでそれも叶わず。

 
VHSの販売元であるアスク講談社(現アスク)は語学教材専門会社になっているので、今更こんなものに投資するとは到底思えず…。
 
という訳で、中古テープを入手しました。
 
そうまでして観たいのかよ?と言われると困るのですが、まぁ何となくそういう気分だったということで。
 
中身は、怒る気力も湧かない(サブタイトル通りの)しょぼーんとした索漠感に満たされる寂しさ一杯の映画でした。
 

「8マン~すべての寂しい夜のために」

(1992年/堀内靖博監督)

 
正義漢あふるる横田刑事(若松俊英)は、麻薬取引現場で蜂の巣。
 
上司・田中課長(高橋悦史)の手で谷博士(宍戸錠)の元に運び込まれた横田刑事は、8マン(探偵・東八郎/宍戸開)として復活。
 
ただし、横田刑事としての記憶は抹消(本人が苦しまないようにという田中課長の配慮)。
 
ええっと、ちょっと待て。
 
記憶消去しちゃったら、それはもう横田刑事ではない(横田刑事を助けたことにならない)だろ。
 
原作では、殉職した東八郎の経験と記憶を電子頭脳に移植することによって、全身機械のロボットでありながら東八郎としての人格をキープしていたわけですが、これでは。
 
やがて消したはずの記憶が現在の意識に干渉…って、それじゃロボコップじゃないか。
 
確かに(桑田次郎がちょっとやらかしてしまった関係で連載中止となり)未完に終わった「8マン」を(原作者:平井和正が)リテイクしたのが「サイボーグ・ブルース」で、これが「ロボコップ」に影響を与えていることは周知の事実ですが、だからって本家がパクってどうするよ。
 
指摘するのも虚しいですが、8マンのデザインが酷すぎ。
 
宍戸開の下膨れな輪郭と桑田次郎のシャープな筆致は住んでいる宇宙が違います。
 
で、彼の前に現われた謎の男ケン。
 
ケンは谷博士のひとり息子でしたが交通事故死。溺愛していた息子を助けるために鉄の体に脳を移植。サイボーグとして蘇生させました。
 
が、フランケンシュタインとなった自分を呪ったケンは夜毎殺人を重ね、その後始末を谷博士に押し付けるのでした(谷博士、それ死体遺棄罪ですよ!)。
 
ねじれた近親憎悪で8マンに挑戦するケン。決闘の場所は十字架を並べたいだけ並べた空き地。
 
『これは俺が作ったママの墓だ!』
 
え、ここ墓地じゃないの? ケンが十字架こしらえてひとつひとつ刺したの?
 
キカイダーハカイダーにも遠く及ばないゆるゆるな格闘の末、窮地に陥る8マン。
 
『8マン! ケンの弱点は頭だ! 頭を狙え!』
 
谷博士が息子切りのアドバイス。電子頭脳の8マンと違い、ケンには生の脳みそが入っているので頭部は脆いんですね。
 
8マン、それまでは「お前とは戦いたくない」とか言っていたくせに躊躇無く頭部に必殺パンチ!
 
ううむ。このお話、短編読みきりの「決闘」をベースにしているのですが、諸設定がかなぁり異なります。
 
8マンのボディはアメリカ(平井の言によればNASA)で谷博士が開発した人型兵器。
 
兵器としての使用を拒んだ谷博士がボディごとガメて日本に持ち出してしまったわけです(これはこれでかなり無茶のような気がいたしますが)。
 
8マンの翌年に連載スタートする「サイボーグ009」のギルモア博士と同じスタンスですね(因みにこの人型兵器、開発順にゼロゼロナンバーで呼称されます)。
 
ケンは自ら志願してサイボーグとなり、父である谷博士と8マンを回収すべく来日。
 
ケンの顔立ち(写真3枚目はアニメ版のケン)が8マンに似ている事から、8マンは息子をモデルに設計したのでは?と東が訝るシーンもあります。
 
決闘の場では“頭部が弱点”と知らされますが、「谷博士を悲しませることはできない」と死を覚悟する8マン。
 
が、機械のスーパーパワーに生身の脳がついていけず、ケンは自滅。
 
超人的な能力に肉体が拒絶反応を起こして自滅する、というパターンは後に平井が人狼、暁に死す」でも使っていますね(「ウルトラマンティガ」のイーブルティガもそうか)。
 
映画版はとにかく、暗い・しょぼい・寂しいの波状攻撃。あのアッパーな主題歌を悲しげなスローテンポにアレンジする必要がどこにあるのか。
 
一体、どこにどれだけの金を掛けたのか皆目見当がつきませんが、こんなものが当たる訳ゃないですよねえ。
 

リム出版、1993年倒産。合掌。