
『息子のカーマインだ。何か演奏してみろ。ほら、いつもの奴』

おずおずとフルートを吹き始める少年。お馴染み「ゴッドファーザーPartⅡ」の1シーン。カーマインとは勿論、監督の父・カーマイン・コッポラのこと。
年末にケーブルで放送された「ゴッドファーザー/テレビ完全版」(ゴッドファーザー「1」「2」を時系列に並べ替え、一部の残酷シーンをカットする代わりに大幅な場面追加がなされたディレクターズカット版)を観ていて、ふと思い出した映画があります。
「ナポレオン」
(1926年/アベル・ガンス監督)
4時間に及ぶモノクロ・サイレントの超大作。
1950年代に映像作家ケヴィン・ブラウンローがその断片に接し、現存するフィルムの収集を開始。修復(オリジナル版の復元)が完成したのは1973年。
前後してクロード・ルルーシュの資金援助によるトーキー版も完成(1971年)。こちらは130分の二部構成。
ブラウンロー版を観たコッポラがルルーシュから版権を買い取って、父カーマインが曲をつけたのが、コッポラ版ナポレオンです。
日本でのお披露目は1983年2月5日。場所は日本武道館。
カーマイン指揮による新日本フィル・ハーモニーの生演奏付き。
4時間(途中休憩30分)という長丁場を考慮してか、座席にはエアークッションが置かれていました(硬いからねぇ、武道館の椅子は)。
およそ考えうる映像技法(ただし、スローモーションは除く)の見本市とも言うべき一大絵巻でしたが、見せ場は何と言ってもクライマックス20分。
中央スクリーンの左右にスクリーンが現れ、画面が一気に3倍に!

“トリプル・エクラン”というアベル・ガンス発案によるマルチ・スクリーン(後のシネラマの先駆け)。
これが、時に分割され、時に1本に繋がり、スペクタクルを演出。
最後は3面が各々青・白・赤のトリコロールに着色される粋な演出。

これ、(特にブラウン管時代の)ビデオだとテレビ画面以上に拡大することは出来ないので、それまでフルサイズだったものがクライマックスになると上下に黒味の入る横長サイズになり、大きくなるどころか小さくなっていました。
今は、モニター画面が横長なので、多少の小細工はしているようですが、それでも物理的3倍のスクリーンと生演奏の迫力は伝わってはきません。
まあ、4時間退屈しなかったかと言われれば「う~ん」ですし、カーマインの音楽が良かったのかと言われれば「うう~ん」なのですが、だからこそ、ライブとして体感しておくべきイベントだったのではないかと思います。