『人間が来る。人間は悪い。
パーとマーは陸へ行く。ファーとビーは海に行け。
二度と人間に近づいてはいけない。
二度と人間と話してはいけない』
吹き替え版ではこの後、「泳いで、食べて、遊ぶんだ」の一言が追加されています。
イルカに言葉を教える傲慢、そのイルカを暗殺者に仕立てる邪智。
確かに人間は悪い。
「イルカの日」(1973年/マイク・ニコルズ監督)
海洋動物学者ジェイク(ジョージ・C・スコット)と妻のマギー(トリッシュ・ヴァン・ディバー)は、2頭のイルカ、アルファとベータに言葉を教えることに成功します。
ただ人間の言葉が分かるという意味ではありません。片言で話すことが出来るという意味です。
彼らに資金提供をしているのは謎の財団。ここは、ある特定の思想集団と繋がっていました。
前半の人とイルカのコミュニケーション話が、後半、かなり唐突に大統領専用船爆破計画というポリティカル・サスペンスになってしまうのですが、マイク・ニコルズは“サスペンスを盛り上げる気なんかさらさら無い”ようで、演出は終始淡々。
音楽もジェリー・ゴールドスミスあたりが演っていればガンガンに盛り上げる伴音をつけたでしょうが、ジョルジュ・ドルリューの音楽はどこまでも哀しく切なく美しく。
財団の正体も暗殺の理由も不明。恐らくはタカ派の集団がダラスの夢をもう一度ってなノリでやっているのでしょうが、そこいら辺の事情が語られることはありません。
ジェイクに力を貸す政府系のエージェントらしき人間の素性も曖昧。
エンディングも唐突で「え? ここで切るの?」(いや、そんな木陰に隠れただけで討手をかわせるんですか?)な終わり方。
ひょっとすると監督は人とイルカの別れのシーン(もしくは「Man is BAD」という台詞)を撮りたかっただけで、その他の状況にはあまり関心がなかったのかもしれません。
「Man is GOOD」と教えてきたのに、人間に嘘をつかれ信頼を失い(「人間 ないこと 言う」)、最後には「Man is BAD」と訂正しなければならない苦悩。
でも本当の苦悩はイルカに人間の言葉を教えた己の傲慢。奴らも大概だが、諸悪の根源は自分自身。
『私は間違っていた。我々がイルカから学ぶべきだったんだ』
本作、当初の予定ではロマン・ポランスキーが監督するはずでした。
が、ポランスキーがイギリスでロケハンをしている最中にシャロン・テート事件が起きてしまい…。
ポランスキーが監督した「イルカの日」、観たかったです。