「地上戦闘で1人で100人の敵を殺す事は不可能であるが、我が航空隊は一機以って数百名の敵を船もろとも殺す事ができる。
我々は死に甲斐のある戦いができるのだ。
勝敗は最後にある。99回敗れても最後に1勝すればそれが勝ちだ!」
神風特別攻撃隊産みの親、大西瀧治郎と言うと、岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」冒頭で、
「もうあと二千万、日本人の男子の半分を特攻に出す覚悟で戦えば、必ず、必ず勝てます!」
という“この期に及んで何言ってくれてんだ、このおっさん”な台詞と共に記憶されておりましたが、この発言にはそれ相当の決意と覚悟があったのだよ、という視点替え終戦秘話。
「あゝ決戦航空隊」(1974年/山下耕作監督)
東映オールスターズによる3時間19分の戦争巨編。脚本が「仁義なき戦い」の笠原和夫と必殺シリーズの野上龍雄、監督が「緋牡丹博徒」「昭和残侠伝」の山下耕作。
もうどこを斬っても東映印。三角マークに波ざっぱーん!
大西瀧治郎役は予備士官として特攻隊を見送り続けた鶴田浩二。全身浪花節。
彼の片腕として辣腕を振るうのが児玉誉士夫。そう、後に日本のフィクサーとなり、ロッキード疑獄で一般にも名が知れた、あの児玉誉士夫です。
演じるは小林旭。当時の児玉は上海に設立した児玉機関の機関長として、諜報と物資調達という国を支える裏方仕事をしておりました。
大西は何故、特攻を出し続けたのか。
「アメリカと真剣に戦っているのは若者たちだけだ。確かに特攻は必勝の道ではなかったのかもしれん。しかし、そこまで徹底してやってみせなければ、日本と言う国は腰を上げんのだよ。徹底して負ける。そこまで行き着いたら誰も逃げ隠れはできんだろう。日本人が日本人の正体というものをはっきり悟る時が来る。そうなって初めて次代に望みを託すことができるのだ」
そのための犠牲、それが特攻なのだ、と。
作品としての出来は「日本のいちばん長い日」の方が遥かに上です。鶴田の感情に流される演技(見応えは抜群ですし、もらい泣きもしましたが)が、全体の印象をウェットなものにしています。何より、その他出演者が全員ヤクザ演技なので、戦争映画を観ている気になりません。
それでも昨今の市井の目線による左巻きな思想がステマのように入り込んでくる乙女チックな戦争映画に比べれば数百倍面白いですが…。
「日本のいちばん長い日」は陸軍大臣・阿南惟幾の割腹で幕を閉じましたが、本作の〆は大西の割腹(どちらも介錯を頑なに拒絶)。
腹真一文字の後、頸、胸。敢えてトドメは刺さず、長時間苦しむように仕向けて戦後への想いを児玉に託して絶命。
356分というマラソン鑑賞になりますが、是非「日本のいちばん長い日」とセットでご覧ください。