
スーツ、着流し、ダボシャツ。男の正装三点セットを華麗に着こなす高倉健を堪能しましょう。
「地獄の掟に明日はない」
(1966年/降旗康男監督)
舞台は長崎。競艇場の利権を巡って抗争を続ける山崎組と権藤組。双方を手玉に取って漁夫の利を狙う悪徳弁護士(黒い桑畑三十郎)。
高倉健は長崎被災時に山崎組組長に拾われ、息子同然に育てられてきた戦災孤児。
原爆症を患っていて余命知れずという長崎ならでは宿痾を背負っています(残念ながら全く活かされておりませんが…)。
66年と言えば「飢餓海峡」の翌年。「昭和残侠伝」シリーズ3作目、「網走番外地」シリーズ5~7作目、「日本侠客伝」4~5作目の公開年。
初期のギャングものから着流しやくざ、現代やくざへの過渡期で、“健さんはどの方向にも転べる”ごった煮の季節。
だから、と言う訳でもないのでしょうが、本作は“異国情緒”“不治の病”“悲恋”“八百長試合”“暗殺”“裏切り”“復讐”と全方位タイムサービスつかみ取り大会。
どれもドラマとして有効に機能していないのが残念無念ではありますが。
十朱幸代とのラブロマンスはにっかつ色(いや、フランス色か)満開。望郷チックなエンディングはお約束ですが、もう少し撮り方に工夫はできなかったのか。

実は右のダボシャツ長ドスシーンは予告のみで本編にはありません。
もうひとつは役者さん。皆若い!
つるっつるの小林稔侍、細おもてな石橋蓮司。佐藤慶もお肌てらってら。
驚いたのは健さんの同郷人で新聞記者役の今井健二。
悪役以外見たことが無い(と言うか顔立ち的に悪役しかできない)彼が、(善玉とは違いますが)微妙に爽やかな青年役を。

あなた、必殺シリーズだけで何回死にました?
そして、言葉巧みに二人の組長を手玉に取る悪徳弁護士・三國連太郎。こういう飄々とした悪人演らせると巧いですねえ、この人。
脚本がとっ散らかってはいますが、役者と風景眺めているだけでも十分楽しめる出来ではありました。