「弾いっぺぇ持ったか?」
「…3発持った」
「そればっかりで大丈夫だか?」
「ワタリグマは秋田の山さ1頭しかいねぇべ」
「じっちゃ、やっぱりライフルの人たちと大勢でおったほうが安全でねぇべか?」
「あいづはライフルで撃つような熊でね」
「なして!?」
「ライフルだば200メートル先の熊、なんぼでも当る。スコープつけてみれ、500まで伸びる。しかも5連発だ。そだな油臭ぇてっぽで撃ったらクマは成仏できねぇべ」
「ほんでもじっちゃの村田銃は一発だから危ねぇべしぇ」
「だ。だども、熊ぁ山神様の授かりもんだ。こっちも命懸けでかからねば申し訳ねぇべ。…一発で撃つのじゃ」
「でも外れたら…」
「負けたら…おらが…死ぬのじゃ」
ちょっと震えるやりとりです。老人と少年、ハズレの烙印を押されマタギ犬になれなかったチビ、そして老人をスカーフェイスにした伝説のワタリグマ。
雪吹きすさぶ秋田の山にハードボイルドの幕が開く。
100頭に及ぶ熊を仕留め伝説のマタギとして崇められる老人、平蔵(西村晃)。
老人を慕う孫の太郎。「2m40cmのワタリグマ(ツキノワグマ)などいるわけがない」とホラ吹き呼ばわりされる平蔵を涙を堪えながら見つめる目が素晴らしい。
奴はいました。エサを求めて人里へ。最初は家畜を、次に少女を。
奴は俺が倒す。必ず。
白鯨です。エイハブです。山の男の生き様です。
雪山を彷徨い、ついに見つけた宿敵。熊の持つ可愛いイメージなどビタ一文宿さないアウトローな面構え。たとえ動物園でも出合いたくない人喰いの目。
西村晃がいい。「いらね!」「けえれ!」「だ!」 必要最小限の日本語で意思を(有無を言わさず)伝えるパワー・コミュニケーション。
動物パニックものとは一味もふた味も違う頑固ボイルドです。