重度のAmazon依存症になり、リアルな本屋になぞトンと足を向けなくなってしまいましたが、時間つぶしにふらりと立ち寄った店で夢枕獏の新刊発見。
「新・餓狼伝 巻ノ三 武神伝説編」(2016年4月24日双葉社第一刷発行/夢枕獏著)
「新」の3巻。通算16巻目の餓狼伝。長い。本当に長い連載です。
書き下ろし1巻が刊行されたのが1985年(昭和60年)。実は物語の中での時計の針はここから僅か2年しか進んでいません。30年かけて2年!
1985年。旧UWFで藤原が佐山の腕を折った年。佐山のスコールのような顔面蹴りを喰らって藤原がマットに沈んだ年。そしてUWFが崩壊し新日本に戻ってきた年。
キックとパンチで牽制し、スープレックスで投げ、関節技で極める“シューティング”が生まれ、育ち、新日本という大波に飲み込まれた年です。
主人公・丹波文七が東洋プロレスの道場で前座レスラー・梶原年男の関節技に屈したことを起点とする現代の宮本武蔵伝説。
UWFが最先端だった時代から30年。現実の格闘界はあっという間にフィクションを追い越してしまいました。
グレイシー柔術、K-1、バーリ・トゥード、アルティメット…。総合格闘技という潮流は土石流のように昭和のプロレスを押し流し…。
まだ平成の声を聞くに至らない時代設定にもかかわらず、これらの要素を惜しげもなく小説に投入した結果、時に物語は迷走し、破綻しかかり、それでも“戦う”という原初的本能に救われここまで繋がってきました。
本作でも携帯電話が登場するという致命的なミスを犯しています。
最早“時代劇”と割り切って書き進めた方が良いのではないかとすら思います。
今回は正直“繋ぎ”であり“溜め”。「魔獣狩り」「獅子の門」が完結した今、これまでより集中&加速した展開が期待できます。
早い機会に一旦ドラマを収束させ、あとは外伝にしてしまう、そして作者の死を以って未完となる、というのが「餓狼伝」に相応しい幕引きだと思うのですが、どうでしょう?
■前巻「新・餓狼伝 巻ノ二 拳神皇帝編」のレビューはこちら。