『俺は堅気だぞ。とっくに足を洗ったんだ』
『何で洗った?』
『…何?』
『言ってやろう…お前は仲間の血で洗ったんだ。さぞ綺麗になったこったろうな!』
まだ「仁義なき戦い」まで5年の月日を要しますが、それでも映像の端々に深作らしさが。
国会議事堂バックに【昭和39年10月 暴力団絶滅方針、確認さる】、県警バックに【昭和41年3月】【新県警本部長 前田利一郎】【岩崎組との対決を表明】。
このファッションとこの表情ひとつで現代劇の建てつけが水の泡。
流石の深作も鶴田浩二が放つ“昔気質の不器用な任侠やくざ”というオーラを拭うことはできなかったようです。
港湾利権と生き残りを掛けた岩崎組、袂を別った企業幹部・唐沢(渡辺文雄)の争い。組長に代わって岩崎海運を仕切ることになった黒木。
黒木が組長と話す時、それまで低く寄りで構えていたカメラがすっと俯瞰の引きになる視点の切り替えに軽く息を呑んでしまいました。
任侠の美化も、やくざ映画の疾走感もなく、およそカタルシスとは無縁な展開の挙句、索漠としたラストを迎える、東映ヌーベルバーグとでも言うべき珍品です。