役者を並べただけでお腹いっぱいなところに加えて、ATG、映画同人社、黒木和男、モノクロ映像…。
The新劇。
「竜馬暗殺」(1974年/黒木和男監督)
坂本竜馬(原田芳雄)、中岡慎太郎(石橋蓮司)暗殺前の3日間を切り取った時代劇。
16mmモノクロフィルムを35mmにブローアップしたガッサガサの映像がドキュメンタリーっぽさを醸し出して怪我の巧名。
世評は手放しで傑作、傑作と誉めそやしているのですが、私はどうにも作り手の“とんがったモノを作ってやろう感”が鼻について乗りきれませんでした。
甲高い声でけたたましく笑う幡(中川梨絵)の白痴っぽさ(勿論狙っているのでしょうが)、「皆ぶっ殺してやるぞー!」と叫んでフレームの外に掃けていく右太(松田優作)、など過剰な演技・演出がやたら舞台的で引いてしまいます。
時折挿入される「○○ナリ」という解説フリップも「軽い言い回しでガサついた画面を中和する頭のいい演出だろ」という得意げな感じがどうにもウザい。
似たようなことを岡本喜八監督もよくやりますが、岡本監督はきちんとリズムのある軽妙洒脱さに昇華させています(小手先感がない)。
薩長入り乱れての内紛を「内ゲバ」と表現してしまう辺り、当時の学生運動(左翼思想)と意図的に重ねる狡猾さも何か嫌。
太刀筋はきっちり振り切っているシーンがあるかと思えば、右太(優作)が背中に刀を押し付けられただけ(殴打にすらなっていない)でやられてしまったりと殺陣まで記号的。
■親友・坂本を討たねばならない大義を消化できない葛藤
■惚れているのに坂本のお下がりである妙(桃井)に手を出せない葛藤
■坂本を討てないどころか遂には『俺も連れて行け!』と言ってしまうやおい的な葛藤
が見てとれてさすが石橋!と唸らされるのですが、全体の印象は「しゃらくさい」でした。
末節な話ですが、劇中、原田はバントラインみたいなロングバレルのピストル持っていましたが、竜馬の銃ってS&W No.2 Army (32口径)じゃありませんでしたっけ?