『あなたも入るの?』(Are you joining us?)
『いえ、私は…』(No, I'm not.No.)
『さあ、こっちよ』(It's this way.)
『違うの』(No.)
『廊下に出るのは許可されていないでしょ。戻って!そっちに言っては駄目よ!』
(You're not allowed in the corridor! Comeback! You're going the wrong way!)
ちょっと前にご紹介した「アサイラム 監禁病凍と顔のない患者たち」「キュア~禁断の隔離病棟~」のイメージを引きずっていたので、てっきりホラーだとばかり思っておりましたが全然違いました。
医者の妻と狂人芸術家の道ならぬ恋の顛末。ゴシックなハーレクインロマンスでした。
(2005年/デヴィッド・マッケンジー監督)
原作はパトリック・マグラアの小説「閉鎖病棟」。
恋に落ちる人妻は45歳の若さでこの世を去ったナターシャ・リチャードソン(リーアム・ニーソンの奥さん)。
精神病院の副院長として赴任したマックスと妻のステラと息子のチャーリー。
庭付き一戸建てがあてがわれる“いい話”ですが、ステラにとっては奥様コミュニティに付き合う以外特にすることがない退屈な日々(元々旦那とはうまくいっていない)。
荒れた庭を修繕するのは野外労働を許可された病院の収容患者。その中に嫉妬に狂って妻の首を切り落とした芸術家エドガーが…。
それなりの事件は起きますが、お話自体は特筆する程の事もなく、まあ、そんなもんかって感じ。
見所は舞台となっている1950年代イギリスの風景、美術、建造物。
精神病院の公共スペースに通じる廊下と閉鎖病棟に通じる廊下をひとつに納めたシンメトリーな構図が素晴らしい。
病院を脱走したエドガーが潜伏するロンドンの貧民街。
後半の舞台になるウェールズ北部のいかにもな風景。
そして冒頭では興味本位に覗いていたが最後には自らくぐる事になる閉鎖病棟のドア。
ナターシャ・リチャードソンは、父親が映画監督のトニー・リチャードソン(「長距離ランナーの孤独」)、母親が女優のヴァネッサ・レッドグレイヴ。
2009年にカナダでスキー中に転倒。激しい頭痛→昏睡→脳死→事故前の本人の希望に従い、生命維持装置を全て撤去して死亡。
不謹慎ではありますが、4年後にそんな運命が待っている女、という目で見ると一際味わい深いものがあります。