『この土地は凍った地獄だ。あるのは雪だけでどこも静まり返っている』
『ここの人々は強制的に連れてこられた。雪と静寂以外は全て奪われたそうだ』
ワイオミング州の先住民居留地「ウィンド・リバー居住区」。
掲げられているのは“逆さ星条旗”。絶望を煮〆た白銀の大地。
「ウィンド・リバー」
(2017年/テイラー・シェリダン監督)
ウィンド・リバーの雪原で発見されたネイティブの娘の死体。
発見者は野生生物局の職員として働く地元の白人ハンター、コリー(ジェレミー・レナー)。
知らせを受けてベガスからやって来たのは、フロリダ出身の新米FBI捜査官ジェーン(エリザベス・オルセン)。
娘は裸足。複数のレイプ痕。しかし、死因はマイナス30度の空気を走りながら吸い込んだことによる肺出血。つまり自分の血による窒息死。
死因が殺人でなければ捜査はFBIの手を離れ、インディアン管理局に移ってしまう。広がりたいだけ広がっているエリアをたった6人でカバーしているインディアン管理局に。
土地を知り尽くした案内人と異邦人であるFBI捜査官、という呉越同舟は「ボーダーライン」そのまま(監督は「ボーダーライン」の脚本家)。
違うのは「ボーダーライン」のFBI捜査官がどこまでも道化であったのに対し、ジェーンにはそこそこの愛情が注がれていること。
法律という正義を貫こうとする態度にも真摯さが伝わり嫌味がありません。
先住民居留地を舞台にしているため「社会派」という事になっていますが、正直、そこいら辺の掘り下げはあんまり。
ここは今回犠牲者となった娘の父親とかつてこの地で娘を失ったコリーという“決して取り戻すことのできない最愛に対する慟哭”を抱えた男の物語として観るのが吉。
ジェーンの質問に対して冷静さを失わず(心を開かず)毅然と構えていた父親がコリーの顔を見た瞬間、抱きしめて号泣するシーンはベタですが泣けました。
コリーがセラピストに言われた言葉。
『いい知らせと悪い知らせがある。悪い知らせはあなたが決して元には戻れないこと。娘の死を埋められるものなどどこにもない。いい知らせは事実を受け入れ苦しめば、娘と心の中で会えること』
残されたものは追憶だけ。
『お前はこれからあのFBIの子守りか』
『そう頼まれたが、指図は受けない』
『どうする気だ?』
『俺はハンターだ。わかるだろ?』
アクションシーンはクライマックスのみというストイックさですが、人が猛獣用高性能ライフルで撃たれるとどうなるかを活写したシーンには唸りました。
トレーラーの側面、家具をぶち抜いて相手を反対側まで吹き飛ばす。
コリーの得物はスコープ付きMarlin Model 1895SBL。マーリン・ファイア・アームズ社が開発したレバーアクション式小銃。サブで使っていたハンドガンはルガー・スーパーブラックホーク(44マグナム弾が撃てるようにブラックホークを強化設計したもの)のステンレス・スチール・モデルでした。
★ご参考
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★本日のテレビ放送【13:00~テレビ東京/午後のロードショー】