事故に乗っ取り、蛇だゾンビだ細菌だ。逃げ場の無い空の密室…エアパニックものは作り手にとって魅力的な素材のようですが、風呂敷の広げ方には注意が必要です。
「パンデミック・フライト」
(2015年/アンソニー・ウッドリー監督)
世界規模で発生した謎の感染症。致死率100%のウィルスに各国はパニック状態。
イギリスも渡航禁止となりましたが、最後の国際線がテイク・オフ。
しかし既に乗客の中に感染者が…というコロナ直前の英国産パンデミックもの。
経過説明や乗客紹介というお約束を全部すっ飛ばしていきなり「感染者がいたぞー!」という出だしはある意味潔いですが、設定とディテールの掘り下げが無さすぎ。
ウィルスの感染力は凄まじいようで、非常線を張っている軍は感染者を見つけ次第射殺…しているのですが、何故か無防備ノーガード。
死体処理をしている人だけガスマスクのようなものをしておりますが、残りは全員マスク無し。
普通に(感染を隠している)感染者と会話していますし、至近距離で蜂の巣にしたら返り血浴びると思うのですが、あまり気にしていない様子。
最後の国際線となれば、金にモノを言わせた訳アリの乗客がびっしり乗っていそうなものですが、クルー含めて10名足らず。しかも乗客プロフィールの説明無し。
状況的に他国に飛んだら領空侵犯で軍が警告&攻撃を仕掛けてきそうなものですが、スクランブルも一切なし。
国の屋台骨がそこまで揺らいでいるようには見えない(軍は非常線張っているし、地上では死体焼却の煙がそこかしこでたなびいている)のですが、途中降り立った空港は無人。
いやあ、空港はまず軍が制圧するでしょ。そのまま放置って…。
こういう絵面は嫌いじゃないですが…。
感染すると患部が爛れて膨れ上がるのですが、致死率100%とか言っている割に皆元気。徒党を組んで武器持って飛行機略奪しようとするくらい元気。
クルーの中に「ミスト」のマーシャ・ゲイ・ハーデン的立ち位置のおっさんがいるのですが、こいつがすげーウザい。
最初のうちは「生き残れるはずだったのに感染者連れ込みやがってウガー!」な感じだったのが、途中から「俺たちがサクリファイスになって感染拡大を止めるんだウキー!」になって飛行機墜落させようとしたりでもう邪魔邪魔。
とっとと殺せよ!なストレスに苛まれますが、死なないんだなこいつが。
これなら戒厳令突破してプライベート・ジェットに乗り込んだ少数精鋭が、どの国の支援も受けられない(どころか撃墜の危険に晒される)状態で、治療施設があると噂されるグリーンランドを目指すという「さすらいの航海」的な展開にした方が良かったような気がします。
という「思った以上に褒める所がない」残念作でした。
気分転換に「低予算だけどちょっと拾い物だった飛行機もの」を挙げておきます。
- 「スティーブン・キングのランゴリアーズ」(1995年/トム・ホランド監督)
- 「スネーク・フライト」(2006年/デヴィッド・R・エリス監督)
- 「エアポート2013/航空機全滅」(2012年/フレッド・オーレン・レイ監督)
- 「エアポート2015」(2015年/エミール・エドウィン・スミス監督)
「ランゴリアーズ」は180分という長尺のTVMですが、飽きることなく引っ張り続ける匠の演出を堪能できます。
「スネーク・フライト」はこの世で一番恐ろしいのはキレたサミュエル・L・ジャクソンだという事を爽快感と共に教えてくれます。
エアポート2作には金は無くとも風呂敷は広げられるというアイデアと勢いがありました。
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