デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

世界の車窓から国内篇 皇帝のいない八月

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カサンドラ・クロスのヒットを受けて作られた日本版「世界の車窓から」。

 

「皇帝のいない八月」

(1978年/山本薩夫監督)


押井守に影響を与えまくった自衛隊クーデターものの代表作です。

博多発の寝台特急さくらを自衛隊反乱部隊が制圧、360人の乗客を人質に一路東京へ。

クーデターそのものよりも、自衛隊幕僚幹部(三国連太郎)と内閣調査室長(高橋悦史!)によって米国まで巻き込んだ反乱計画(暗号名:皇帝のいない八月)の全貌が明らかにされる過程がスリリング。

まあ色々と突っ込み所は満載なのですが、そこは常に「社会派」の枕詞がつく山本薩夫監督、61年のUPI誤報事件とか巧みに織り込んだ語り口は見事。

アクションよりも調査、鎮圧、後始末に力点を置いているあたりも流石、社会派。

国家の理想を追う反乱部隊リーダー藤崎元一等陸尉(渡瀬恒彦!)の対極にいるのが平和ボケ民間人代表・山本圭なのですが、はっきり言ってこの人邪魔。

吉永小百合との松竹メロドラマがなければ骨太なクーデター映画の傑作になっていたでしょう(それでも大好きな1本ではあります)。

 

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お気に入りのシーンはやはりここ。渡瀬に投降を促すよう命令された同志・山崎努ですが、既にハチの巣・虫の息。死期を悟ったアイコンタクト。この男と男の間にメロドラマなぞ入る隙はありません。