デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

馬鹿野郎!馬鹿野郎!馬鹿野郎! 肉弾

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毎年恒例、シリーズ8月15日。今年はこれを。

「肉弾」(1968年/岡本喜八監督)

68年と言えば「日本のいちばん長い日」の翌年。なんでも、国家目線で“あの日”を描いてしまった反動(反省?)が本作の製作動機なんだとか(東宝ではなく、ATGと提携しての自主製作)。

昭和20年。特攻隊員の“あいつ”(寺田農)は、魚雷を括りつけたドラム缶に入って太平洋に浮いていた。

出撃前に貰った1日だけの休暇。最初に出会ったのは、戦争で両腕を無くした古本屋の老店主(笠智衆)。用足しもままならず奥さんアシスト。

「あれ、止まらないなあ。壊れちゃったかな」

後から(アレを)支えながら優しく微笑む奥さんを見て“あいつ”は想う。「観音様だ」

そして出会った“あいつ”の観音様大谷直子防空壕で彼女と結ばれるシーンは、「潮騒」の“その炎を飛び超えて来い”的演劇口調なのに、なんとも切なく悲しく力強く。

「これで俺は死ねる。君を守るために死ねるぞ!」

ベタベタな岩清水弘台詞に涙止まらず。

中央が玉音盤巡って大騒ぎしていた時に、こうやって死と折り合いをつけていた若者(とりも直さず監督の姿なんでしょうねえ)がいたと。

ラスト、国も観客も一絡げにして現代にこだまする“あいつ”の絶叫は、傍観者という安全地帯をこともなげに吹き飛ばす名シーンです。

※参考:
「か、介添えを。無用! 日本のいちばん長い日」→2008年8月15日
「俺たちは人間じゃない、部品なんだ! 人間魚雷回天」→2009年8月15日