ジャマイカの音楽映画でもアメリカの人種差別映画でもなく、勿論、太田哲也のドキュメンタリーでもありません。
カナダの変態が新たな地平を切り開いた野心作です。
「クラッシュ」
(1996年/デヴィッド・クローネンバーグ監督)
自動車事故のエクスタシーにとり憑かれた男女のハンドル切り損ねた性癖のドラマ。
CFプロデューサーのジェームス(ジェームズ・スペイダー)はある日ハイウェイで景気良く反対車線の車と正面衝突。
相手ドライバーはフロントグラスをダブルでぶち抜くトペ・スイシーダを敢行して即死。
一命を取り留めたジェームスと相手の助手席に乗っていた女医ヘレン(ホリー・ハンター)は、クラッシュの瞬間にこの世のものとは思えぬ悦楽を感じ・・。
そして出会った謎の男ヴォーン(イライアス・コティーズ)。
ジェームズ・ディーンなど有名人の自動車事故を可能な限り同じ状況で再現するスタント・ショーを開催するクラッシュ・マニア。彼の元には志を同じくする事故フェチが。
両足を拘束具で固めた美女(ロザンナ・アークエット)、ジェームスの妻キャサリン(デボラ・アンガー)らが順列組み合わせでスワップ大会(男同士もアリ。18禁です)。
普通の人間には理解不能な世界ですが、グロ封印した余力を全部エロに廻したクローネンバーグの変態絵巻は常識人の感想などものともしない威厳に満ちています。
カンヌで公開された時はブーイングが巻き起こったそうですが、ウゼー光景です。映画は常識的・道徳的手本を見せるために作られているわけではありません(結果は審査員特別賞受賞)。
アクセプトの「メタルハート」のイントロ10秒を延々繰り返しているようなハワード・ショアの音楽も麻薬的で素敵。
タラの「デス・プルーフ」にも事故をセックスのメタファーとする分かりやすい描写がありましたが、クローネンバーグが撮ると妙に崇高に見えちゃうから不思議です。