この映画の真に素晴らしい所は、自殺願望のある刑事というメンタルヘルスな設定・・ではなく、最後の勝負が徒手格闘で且つ決め技が“横三角絞め”である、という一点に尽きます。
(1987年/リチャード・ドナー監督)
87年と言えば、経営難に陥って新日本と提携(85年~)した旧UWFが進むべき道を見失っていた頃です。
前田・藤原らが新日本で使った関節技と言えば、脇固め、アキレス腱固め、羽折顔面絞め(当時はまだチキンウィング・フェースロックという呼び名はなく、旧UWF単独興行時代には変形裸絞めなんて呼ばれていました)程度。
スーパータイガー(佐山)らとあやとりを楽しむかのように使っていた横三角絞めは(少なくともフィニッシュ・ホールドとしては)封印されていたように記憶しています。
このままシューティングはストロング・スタイルに呑み込まれてしまうのか、と思った矢先にメル・ギブから届いた強烈なメッセージ。“格闘の基本はサブミッションだぜ!”
本作公開後の11月19日、前田は無防備な長州の顔面を背後から蹴撃、洞底骨折させて無期限出場停止に。
12月にはUWF解散を宣言。年明け3月には新日本を解雇され、最早前田に残された選択肢は廃業か海外転出の二つしかありませんでした。
ところが! 前田は第3の選択、“UWF再興”をチョイス。僅か6名の選手で旗揚げ興行を行いました(当然私も後楽園ホールへ!)。
当時、前田が本作を観たかどうかは知りません。仮に観ていたとしても、それが新生UWF設立の動機や遠因になったなんて事はないでしょう。
ただ、ちょっと妄想してみたくなる、そんなタイミングの映画ではありました。
しっかし、今のメル・ギブは見事なくらい昔の面影がありませんな。今の彼しか知らない人に「マッドマックス」見せて、“これメル・ギブだよ”って言っても信用されないんじゃないでしょうか。