『数学できんのが、何で悪い!? 殺したるー!』
(キャッチ・コピーは「数学できんが何で悪いとや」ですが、劇中の台詞はこう)
以前レビューした石井聰互監督の同名8mm映画のにっかつ版リメイクです。
「高校大パニック」
(1978年/澤田幸弘・石井聰互共同監督)
開巻、Kマークのロゴに“一般映画返り咲き”を狙うにっかつ(いや日活)の心意気が。
九州大学合格のみをレーゾンデートルとする福岡有数の進学校。落ちこぼれは容赦なく切り捨てられ、ノイローゼで自殺する生徒は“敗者”と看做され、教師は意に介さない。
23分のオリジナルを94分まで引っ張る関係上、エピが増えたり膨らんだりしていますが、不思議と水増し感はありません。
何と言っても特筆すべきは、ちらっと映った瞬間に只ならぬオーラを撒き散らすクール・ビューティー浅野温子の若き日の姿でしょう。
沙粧妙子の高校時代として使えそうな絵柄満載です。
もうひとつ、気になったのが、青木義郎演じる栗田刑事が密かに県警に出動を要請した“特殊銃隊”。
実は77年11月にSATの前身である“特殊部隊(内部呼称SAP-Special Armed Police-)”が設立されていますが、設置されたのは東京と大阪。
しかも、この組織、95年の全日空857便ハイジャック事件まで存在極秘。
SAT(Special Assault Team)として再編成されるのは96年4月。つまり、本作撮影時には、特殊銃隊のような狙撃部隊は(名目上は)存在していないはずなのです。
恐らく、70年の瀬戸内シージャック事件(大阪府警狙撃手により犯人射殺)、77年の長崎バスジャック事件(長崎県警突撃隊により犯人1名を射殺)あたりから着想を得ている(新聞記者の口から両事件の名前が挙げられている)のだと思いますが、“良い勘していた”という事でしょうか。
犯人がマメにマガジン交換をしている(その際、空マガジンに弾丸装填する事を忘れない)とか、刑事が犯人の自宅を覗いた際、何気に机の上に雑誌「GUN」が置いてあったりなど、細かい突っ込み防止策が取られている辺り、流石メジャー作品と感心します。
ラストの「来年受験なんだ!ラジオ講座があるんだ!」という絶叫はオリジナルのままですが、これは犯人像が良く分からないオリジナルの作りでこそ有効で、細かい人物描写をしてしまった後だと“取って付けた感”が否めません。
徒弟制度の蔓延する撮影現場で素人同然の石井監督がどこまでイニシアチブを握れたのかはちと疑問ですが、オリジナルの意向を汲んだ(が故に違和感のある)印象深い作品です。
あ、あと、河原崎長一郎扮する生活指導教師が、犯人説得の際に、
『俺と一緒に酒ば呑んで、悩みを話し合った事もあったやろが』
と言っていましたが、酒飲ましちゃ駄目だろ。高校生に。生活指導教師が。
★ご参考