端的に「ヤマト」(に代表される最近の日本映画)を観た反動なのですが、演技の出来る役者がいる、ただそれだけの事がこれほどまでに心地良いとは。
監督が聞いたら「そんなレベルで語るなよ」と嘆くでしょうが。
「うなぎ[完全版]」(1997年/今村昌平監督)
うなぎとだけ心通わす孤独な男、という設定だけ見て、“ああ癒し系まったり映画か”と早合点してはいけません。
役所広司の“嫁さん出刃滅多刺し”というまさかのバイオレンスで幕を開ける本作は、「世界の中心でアイを叫んだけもの」に一脈通じる“通過儀礼”の物語。
役所さんのキレ演技って、演技じゃないんじゃないかと思える事がよくあります(「CURE」とか)。この人、内に怪獣飼ってるんじゃないでしょうか。
そして8年後の仮出所。
田舎町の川のそば、崩れかけた理髪店を改装して営業開始。
彼を取り巻く人たちが皆魅力的。
『娑婆にでたらよおぉ、ムショん中より人間関係は大切にしないといけないんだぜ』
ドスの利いた囁きを聞かせる保護監察官(住職/常田富士夫)の女房(倍賞美津子)。
『海の中は死屍累々よ』
まるで独立愚連隊の生き残りのような船大工(佐藤允)。
UFOを待ち続ける駐在の息子(小林健←小林捻侍子息)にノミ屋の兄ちゃん(哀川翔)、そして、役所の妻に良く似た服毒自殺未遂女(清水美砂)。
役所は決して善人ではありません。それを良く知っているのがムショ仲間の柄本明。性悪なキャラですが、彼は役所のドッペルゲンガーなのかもしれません。だから、本人も気づかない本質を言い当てる。
『分かった・・お前、セックスが下手なんだ! そうだろ、下手なんだ、セックスが!』
他に、田口トモロヲ、市原悦子(←脳患い)などの怪優も。
話を重くせず、小さな笑いを随所に(役所が保護監察官の後ろを行進して「並んで歩けんのかね君は」と言われたり、ランニングしている集団を見て条件反射的に最後尾についてしまったり←この辺の描写は「刑務所の中」がサブテキストになります)。
うなぎの水槽に手を入れてそのままダイブしてしまうイメージショットは僅かに「トレインスポッティング」の5ヵ月後。惜しい。
※参考:「世界の中心でアイを叫んだけもの」→2009年8月5日