佐々木守が「ウルトラセブン」で書いた脚本は僅かに2本。
1本は問題作「遊星より愛をこめて」。そしてもう1本が、
「ウルトラセブン/第38話・勇気ある戦い」
(1968年6月23日放送/飯島敏宏監督)
自分の星の資源を使い尽くしてしまったパンダ星人が、ロボットを使って地球の資源(自動車)を盗みに来る…ってのが縦軸ですが、横軸として心臓欠損症の手術を控えた少年、オサムのお話が。
同じ心臓病の患者が手術に失敗して死んだという新聞記事を見て怯え、手術を拒絶するオサム。
「ウルトラ警備隊のダン隊員が来たら手術を受けてもいい」
オサムの姉の友人がアンヌなので、コネを利かせてダン登場。
サッカー選手に合いたいとかいうのと同じ心理でしょうが、ダンって個別キャラとして一般的に有名な存在だったのか。
ダンが公務をバックレて病院に来たにも関わらず、オサムは駄々捏ねまくり。挙句の果てに「手術にも立ち会ってくんなきゃヤダヤダヤダ」。
よせばいいのにダンは立会いを確約。測ったように当日、パンダ星人のロボットが飛来。
手術を担当するユグレン博士はシンガポールに別の手術に行く道すがらの途中下車でタイムリミットケツカッチン。
ダンはロボットに拉致られかけた博士を助け命懸けで闘っているというのにオサムは「ダンが来なきゃヤダヤダヤダ! ダンの嘘つき!」と我侭言いたい放題。
戦闘中にコンクリートブロックの直撃を受けたダンはフルハシに担がれてオサムのいる病院に来ますが、「怪我をしたから病院に来た、と思われたくない」と言って治療拒否。
金城哲夫が常に「強者による弱者差別」を念頭に置いていたのに対し、左巻き佐々木守の拠所は「国家による個人否定の糾弾」。
オサムとの約束と地球防衛を秤にかけて、後者を選択したダンを佐々木はとことん非難します。
しかし、残念なことに我々(少なくとも私)の眼にはオサムの言動は“周りを顧みない自分勝手なガキのたわごと”にしか映りません。
「故郷は地球(ウルトラマン)」ではギリギリのところで隠蔽に成功した“優先順位1位の保護法益(※)”が今回は野晒しとなってしまいました。
(※)ジャミラは可哀想な奴ではありましたが、真に可哀想だったのは、平和会議出席者と乗り合わせてしまったばっかりに飛行機ごと爆破されてしまった一般市民とその家族であり、いきなり家も田畑も焼かれてしまった農民でしょう。
「個人は国家に優先する」事の提示に失敗した佐々木は「シルバー仮面」「アイアンキング」という新しい舞台に移行していきます。
そんな佐々木のあがきとも言える脚本も面白いですが、本作の見所は何と言ってもロボットの造型と飯島敏宏監督の演出手腕でしょう。
ドラマの中では“名無し”でしたが、後に「クレージー・ゴン」と名づけられるロボットの造型が素晴らしい。
セブンでロボットと言えばキングジョーですが、こいつもなかなかの逸品です。
で、このロボットを切り取るアングルがかっちょいい。
セブンでカメラワークといえば実相寺の変態アングル(と画角)が頭に浮かびますが、「んなもん、やろうと思えば俺だって出来るんだよ」な構図が素敵です。
特に夕日に照らされたクレージー・ゴンの残骸(写真一番下)なんか、もはや芸術的オブジェ。
ちょいと影の薄いエピソードではありますが、飯島監督の畳み掛ける展開と相まって見所の多い作品に仕上がっています。