「また果てしない凡戦が続くのか?! この一戦は暗黒のエンドレスバウトになってしまうのか! 果てしない凡戦と言っても過言ではない…」
今でこそDVDとして映像が解禁されていますが、かつてこの試合は“裏ビデオ”としてマニアの間で流通しておりました。
今日に至るも謎に包まれた不可解な一戦をご紹介しましょう(以下、ビデオと前田の著書及び浅草キッドとの対談から構成しています)。
(1986年4月29日/三重県津市体育館)
試合前。アンドレが“前田を殺す”“成敗してやる”と言っている…スポーツ記者から伝えられた情報を鼻で笑う前田。
「お前何年プロレス記者やっとんねん。外人レスラーがそんな事言うの当たり前やん」
しかし、控え室に来たミスター高橋(←マッチメイク担当)の一言で雰囲気は一変。
「気をつけろ。アンドレがお前を潰すと言っている。すまんが俺はレフェリーが出来なくなった」
リングにあがってみるとレフェリーはアンドレのマネージャー。「え? マジ?」
試合が始まってもアンドレは組む気配無し。前田はなんとか試合を成立させようと(テレビ局に迷惑をかけまいと)プロレスをしようとしますが、アンドレは棒立ち。
やがてアンドレはフルネルソンの体勢から全体重(公称236kg)をかけて押し潰しに(普通の人なら首、折れています)。
更にアイアン・クローと見せかけてサミング(Youtubeの画像だとよく分かりませんでしたが、DVDで見ると右手の薬指が前田の左目に入っているのが分かります)。
攻め倦む前田にリングサイドの藤原が檄。
“お前、何考えてんだ?! 余計な事考えるな! ぶっ殺されるぞ! 行け!”
「それでも何かウジウジしてたら(リングサイドに)星野(勘太郎)さんがいたんですよ。“星野さん、これやっていいんですか? 俺やりますよ”って聞いたら、星野さんが“俺に聞くな!”って(笑)」
恐らくこのやりとりがあったであろうシーンの直後、前田がリングに唾を吐きます。“やってやろうじゃねえか!”
「どうしようかなって思ってたら外人側通路でディック・マードックがこっち観てるし、こっち見たらアントニオ猪木がいるし。ああ、みんなで入ってきてノーコンテストにするんだろうなって思ってたらいつまで経っても入ってこないし…。本当に潰そうと思ってんだって。そんで行ったんですよ」
相変わらず棒立ち(古館曰く“大きなロクロがリング中央でクルックルッと回っている、そんな感じであります”)のアンドレにローキックの乱れ撃ち。
最初はアンドレの左膝の裏側へ、次に膝そのものへ。
ここまでは足の甲を使った回し蹴り。しかし、この後前田は何と、
足の裏で正面からアンドレの膝を破壊に…。
明らかに膝を“曲げてはいけない方角に曲げる”攻撃、しかも締め上げる関節技と違い、途中で止める事ができない打撃技。
戦意喪失してリング上で大の字になるアンドレ。
この時、アンドレは“It is not my business(俺が仕組んだ事じゃないよ)”と言ったといわれています。
結果は26分35秒ノーコンテスト。
新日サイドによる組織的な前田潰しと読んだUWFの面々(特に藤原・高田)が猪木に詰め寄るシーンも。
表層的には古館の実況どおり世紀の大凡戦だったかもしれません。ただ単に“面白くないから”放送を見送ったテレビ朝日の判断もあながち間違いではなかったように思います。
しかし、諸事情分かった上で観ると、危険な香り漂うセメントマッチの側面が…。
やはり昭和のプロレスは面白い。